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子どもの命は社会全体で守るべき
Safe Kids Japanの新たな挑戦

2025.01.10

NPO法人Safe Kids Japan(セーフキッズジャパン)をご存じだろうか。予防できるはずの事故で命を落とす子どもを減らしたいと2014年に創設。子どもの事故予防の啓発活動に取り組んできた。創設から10年を経て、更なる高みを目指すセーフキッズジャパンの新たな挑戦について話を聞いた。

イラスト:久保田修康(NPO法人Safe Kids Japan「傷害予防カレンダー」より)

日本における子ども(1歳〜19歳)の死亡原因には、予防できたはずの事故が多い。知っていれば防げたものもあったはず、と悔しさを滲ませるのはセーフキッズジャパン(Safe Kids Japan)理事の大野美喜子さんだ。
「セーフキッズジャパンは、防げたはずの子どもの事故を少しでも減らしたいと考えています。事故を予防する方法についてもっと多くの方に知ってもらいたいです」

 セーフキッズジャパンは米・ワシントンDCに本部を置くセーフキッズワールドワイド(Safe Kids Worldwide)の日本支部で、2014年に創設された。2025年には創設11年目を迎える。
「これまでの10年間は子どもの事故予防の啓発活動を中心に、事故調査・分析、情報発信などを行ってきました。これからの10年間は、活動をさらに高みへと進化させるつもりです」

セーフキッズワールドワイド(Safe Kids Worldwide)は子どもの事故を防ぐことを目的とする国際組織。本部は米・ワシントンDCにあり、米国内に500ヶ所以上の支部があり、世界では25カ国が加盟している。

セーフキッズジャパンは子どもの事故予防を啓発する中核組織として、さまざまな機関と連携している。特に国立成育医療研究センターや東京都立小児総合医療センターなど、小児医療を専門とする病院や行政、大野さんが所属する国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)や国立大学法人 東京科学大学とは、社会に対して啓蒙・警鐘が必要な子どもの事故があった際は連携しながら予防活動を展開するようにしている。

例えばおもちゃの新製品が発売された後に子どもに何らかの事故があれば、医療機関からセーフキッズジャパンに情報が寄せられる。セーフキッズジャパンは情報を整理すると
同時に、研究として取り組むべき課題に関しては、産総研や東京科学大学と連携して事故のメカニズムを分析したり、予防法を検討。その結果を踏まえて、セーフキッズジャパンが社会に向けて事故予防の啓発活動を行う。おもちゃメーカーに対して商品化のアドバイスを行うこともあるそうだ。大野さんはセーフキッズジャパンの理事であると同時に産総研の主任研究員でもあるため、事故の調査・分析に関しては迅速な対応が可能だ。
「なぜ事故が起こったのか、その原因を調査・分析することが大切なのです。原因が分からなければ対策を講じることができず、同じような事故がまた起こってしまうのです」

セーフキッズジャパンの理事であり、産総研の主任研究員でもある大野美喜子さん。(写真:2024年6月19日「海のそなえシンポジウム」より)
ベランダからの子どもの転落防止は大野さんが力を入れている取り組みの一つ。このプロジェクトではベランダの柵の高さや奥行きの様子などがわかる写真を全国から募集し、転落予防のためのヒントを集めた。

もう一人、セーフキッズジャパンで活躍する女性を紹介したい。事業推進マネージャーの吉川優子さんだ。お泊まり保育中の川遊びで息子さんを亡くし、以降、子どもの事故予防
の啓発活動に尽力してきた※。2024年より本格的にセーフキッズジャパンに参画し、活動を始めている。
「日本各地には子どもの安全のために活動する組織や団体、人がいます。今後はセーフキッズジャパンをハブとする連携をさらに広げたいと思っています。また、セーフキッズジャパンの理念を体現してくれる仲間を増やしていくために、子どもの安全に関する知識や方法を学べるプログラム開発も進めています」

セーフキッズジャパンの事業推進マネージャーの吉川優子さん。(写真:2024年6月19日「海のそなえシンポジウム」より)
吉川さんは水辺の安全についてさまざまな場所で講演を行なっており、将来、子どもたちの指導者となることを目指す大学生に向けた講義も行なっている。

セーフキッズジャパンでは2025年以降、特に以下の三つに力を入れていく予定とか。

○子どもの事故予防マイスター制度
○啓発活動の進化と深化 
○安全対策のサポート

マイスター制度を構築する狙いは人材育成。子どもの事故予防の必要性や方法に関心をもち、正しい安全対策を実践できる人材を育てたいと考えている。学校などの教育機関や
自然体験活動の指導者など、子どもと関わる多くの人に参加して欲しいという。子育て支援を行う団体との連携も模索しているそうだ。

啓発活動の進化と深化とは、「事故に気をつけて」と呼びかける注意喚起にとどまらず、例えば安全基準を満たす商品の紹介など、子どもの事故を予防したい人がすぐに実行に
移せる情報を積極的に提供していくというもの。大野さんも吉川さんも、これまでの啓蒙活動をさらにパワーアップさせていきたいと意気込む。

安全対策のサポートとは、慣れや過信で疎かになる安全対策を心理面からもサポートするというもの。今まで大丈夫だったから次も大丈夫。そんな考えをもったことはないだろ
うか。起こるかどうか分からない子どもの事故に対して対策することは、確かに面倒だ。その気持ちを乗り越えて安全に意識が向くように、自治体や教育機関、保護者に働きかけていく体制作りを急いでいる。大野さんは、子どもの命を守るためにセーフキッズとしてやるべきことがたくさんあると語る。
「本来、子どもには事故予防の方法を知る権利があります。知らなくて起こってしまう事故ほど、悲しいものはありません。その方法を知っていれば事故は起こらず、命は守られたはずだからです。子どもの命は保護者だけで守るのではなく、社会全体で守っていく。そんな未来に変えていきたいと思っています」

セーフキッズジャパンが香川県の小学校で行った活動。子どもたちが見つけた校内の危ない場所と、その解決策のアイデアをイラスト化した。

2025年、セーフキッズジャパンは新たなスタートを切った。予防できたはずの子どもの事故をなくすために、理念を共有できる仲間を日本各地にもっと増やしていきたいそうだ。こういう組織が日本にあることは心強く、子どもに関わる教育関係者や自然体験の指導者は、ぜひ強く連携してほしいと思う。「保護者だけでなく、学校だけでなく、子どもの命は社会全体で守るべき」と語ってくれた大野さんの言葉が印象的だった。みんなで子どもの命を守るという意識が社会の中に高まれば、子どもの事故は必ず減っていくだろう。セーフキッズジャパンのこれからの歩みに期待したい。

※一般社団法人吉川慎之介記念基金の代表理事として、子どもの安全に関する啓発活動を行ってきた。
吉川優子さんのこれまでの活動は以下参照ください。

画像・イラスト提供:NPO法人Safe Kids Japan
取材編集:帆足泰子