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どうなる? 日本の夏、どうする? 気候変動。

2025.06.25

2024年の夏は、2年連続で観測史上1位といった記録的に本当に暑い夏だった。
温暖化、気候変動、異常気象など耳慣れたキーワードではあるが、これまで漠然と感じていた不安が現実のものだと危機意識を増大させた人も多かったことだろう。
このままでは地球はどうなっていくのか。そして2025年の日本の夏は、どうなってしまうのだろうか。

2024年8月中旬の日本近海における海面水温を示したもの。(出典:気象庁)
全国のアメダス地点で観測された猛暑日の地点数積算。2024年は猛暑日が多いことが分かる。(出典:気象庁)
気象庁によると、2024年の日本の夏(6〜8月)は1898年(明治31年)に平均気温の統計調査を開始してから最も平均気温が高い夏だったという。各地で最高気温が40度前後になり危険な暑さの日が相次いだ。
2024年の夏(6〜8月)の平均気温偏差(※)は+1.76℃、この値も統計調査を開始してから2023年と並び最も高い夏となった。さらに年平均の気温偏差も+1.48℃を記録し、2023 年(+1.29℃)を大きく上回り最も高い値であった。
そして本稿をまとめる中で驚きだったのは、直近6年(2019~2024年)の年平均気温偏差が歴代6位内を占めるといった高さであるということから、「もう日本の夏は猛暑が当たり前、日本の四季も失われつつあるのだろうか・・・」と、自問してしまった。

猛暑に伴い、台風や大雨なども頻発。
猛暑と大雨は、農産物にも大きな被害をもたらした。豪雨被害などを報道で見聞きすると「温暖化による異常気象だ」と不安を感じた人も多いだろう。
また暑い夏が来る…。そんな気候変動による社会課題をテーマに研究する気候科学者である東京大学・未来ビジョン研究センターの江守正多教授も「危機感を感じている」と言う。
「近年、極端な異常気象が起こりやすくなっているのは確かです。異常気象は本来、主に大気や海などの自然の変動によって、たまたま引き起こされるものを意味していました。しかし現在、私たちが直面している『異常気象』とは人間活動の影響により極端さが増していると考えられます」

日本の夏の平均気温偏差。2024年の夏の平均気温偏差は+1.76℃、長期的には100年あたり1.31℃の割合で上昇している。(黒線:各年の平均気温の基準値からの偏差、青線:偏差の5年移動平均値、赤線:長期変化傾向)(出典:気象庁)
日本の年平均気温偏差の順位表。直近6年が歴代6位内という事実に改めて温暖化を実感する。(※気象庁HPを参考に作表)

「人間活動」というと少々難しく感じるかもしれないが、自動車や電車に乗る、冷蔵庫やエアコンを使うなど、私たちの日常行動も「人間活動」といえるものだ。現在の「人間活動」は、石炭や石油、そして天然ガスなどの化石燃料を燃やすことによって得られるエネルギーに頼っている割合が圧倒的に多い。その際に発生する二酸化炭素などが温室効果ガスとして温暖化の主な原因となっているのだ。

「日本の夏が暑いかどうかは、太平洋高気圧の勢力など天候パターンによって左右されます。パターンは年によって変わるので、過去には暑い夏もあれば、暑くない夏もありました。しかしここ数年、温暖化による影響が顕著になってきました。人間活動によって地球のベースとなる気温が上がっている影響だと思われます」



地球の気温のベースが上がるとは、基準となる平均気温が上がっているということだ。「人間活動」による温暖化で高められた気温に天候パターンの変動の上振れが重なることから地球は記録的な暑さになってしまうのである。2024年の日本の夏の場合、太平洋高気圧に覆われた暑い夏のパターンだったことに加え、温暖化による平均気温の上昇分が上乗せされた結果、経験したことのないような猛暑になったと考えられている。江守さんは「このまま何も対策を講じなければ、平均気温が上がり続け、今後も『昨年より暑い』と感じる夏を経験することが増えていくだろう」と警鐘を鳴らしている。

では、2024年の世界の気候はどうだったのだろうか。
世界気象機関(WMO)が発表した分析では、2024年の世界平均気温は産業革命前と比べて上昇幅が1.55℃を超えたという。温暖化対策の国際的な枠組み「パリ協定」の要点である「上昇幅を1.5℃未満に抑える」といった目標達成がすでに危機的であることが分かる。

ちなみに、上昇幅の目標設定がなぜ1.5℃未満なのか疑問に感じたことはないだろうか。
実は1.5℃と2℃では、極端な気象現象が起こる頻度や強度が大きく異なってくるのだという。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)によると、平均気温上昇が1.5℃になると50年に1度と言われるような高い気温になる頻度は8.6倍に、10年に1度と言われるような大雨の頻度も1.5倍になると言われている。そして上昇が2度になると、高温の頻度が13.9倍、大雨の頻度が1.7倍にまでなると予測されている。
もちろん、1.5℃未満であれば問題ないというわけではない。ただ、上昇幅が1.5℃を超えることで干ばつの増加、生態系の変化、海面の上昇などによって生活の基盤を失ったり、生命の危機に直面したり、私たち人間にも大きな影響が増えると考えられている。

「上昇幅を1.5℃未満に抑える」は、国際社会が設定した重要な目安なのだ。
「現状のペースでは、2100年には産業革命前と比べて平均気温が3℃程度上昇すると考えられます。そうなると気になるのは、海水面の上昇です。2100年には現在より1mほど海水面が上昇する可能性があります。さらに海水面が上がれば、南太平洋の島々は沈んでしまいます。東京や大阪など、日本の沿岸域も決して他人ごとではありません」

日本近海の全海域平均海面水温(年平均)の平年差の推移。(青細線:各年の平年差、青太線:偏差の5年移動平均値、赤線:長期変化傾向)(出典:気象庁)
2024年の日本近海の各海域平均海面水温(年平均)上昇率を示したもの。日本海中部では上昇率が高いことが分かる。
日本近海の全海域平均海面水温(年平均)の平年差の順位。やはり2024年が一番高かった。(※気象庁HPを参考に作表)

それでは、私たちは気候変動にどう向き合えばいいのだろうか。
江守さんは、私たちができることは大きく二つあると語っている。
「まず一つ目は、温室効果ガスの排出を抑えるために一人ひとりができることをすること。すでに起こっている温暖化に適応し対処していく工夫も必要です。そして二つ目は、社会の仕組みの変化を後押しすることです。温室効果ガスを出さない取り組みを行っている企業を応援したり、環境に優しい商品を選ぶ人が増えたり、そんな行動を起こすことで社会は変わっていきます。社会の風潮が変わると政治も動きます。残念ながら日本の政治の中では、気候変動を差し迫った課題として受け止めていないように感じます。一人の小さな行動でも多くの人が行動すれば大きなウエーブとなり、社会も政治も、動かすことができるということを知っておいて欲しいと思います」

現在、世界では「気候市民会議」が広がりつつあるようだ。一般市民から無作為に選ばれた人たちが、専門家から情報提供を受けながら数週間から数カ月かけて気候変動対策について議論する会議である。
この会議の結果は自治体の気候変動対策の計画づくりなどに活用される仕組みだという。フランスやイギリスなどヨーロッパから始まり、日本では自治体を中心に広まってきており、江守さんも気候変動の専門家として参加している。

「気候市民会議」の魅力は、参加した市民に芽生える当事者意識ではないだろうか。
このような取り組みは、一般市民である私たちが「気候変動は自分ごとなのだ」という意識を抱くにも良い機会になることだろう。
「気候変動という地球規模の大きな課題を、誰もが自分ごととして考えることは難しいかもしれません。気候市民会議の広がりが、気候変動について考えるきっかけになってくれればうれしいです。小さな一歩からでも構いません。社会を変えていく行動を始めて欲しいと思っています」と江守さんから最後に一言。

日本気象協会によると2025年の夏は「またまた猛暑傾向」が予測される・・・。夏にかけて太平洋高気圧が強まりやすく、梅雨明けは平年より早く、梅雨明け後は厳しい暑さが予想されているようだ。
年々気温が上がっていく日本の夏、呆れ驚いているだけでは何も変わらない。私たちの小さな一歩が社会を動かし、そして地球環境をポジティブに変えていくのだろう。

※年平均気温偏差とは、平均気温を平年と比較した値(偏差)のこと。日本の年平均気温偏差(℃)は、平均気温の基準値(1991〜2020年の30年平均値)からの偏差を示す。(気象庁HPより)

資料・画像出典:気象庁
・旬平均海面水温
https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/data/db/kaikyo/jun/sst_HQ.html
・2024年夏(6月〜8月)の天候
https://www.data.jma.go.jp/cpd/longfcst/seasonal/202408/202408s.html
・日本の年平均気温
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/temp/an_jpn.html#:~:text=2024年の日本の,高い値となりました%E3%80%82
・海面水温の長期変化傾向(日本近海)
https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/data/shindan/a_1/japan_warm/japan_warm.html

江守正多(えもり せいた)
東京大学未来ビジョン研究センター 副センター長。教授。

取材編集:帆足泰子