Compass 様々な専門家が語る明日の針路。
中・高校生の皆さんへ
~溢れる情報をチャンスに変えよう
現代社会は情報社会。誰もが情報を入手できるメリットもあれば、それゆえに差がつかず競争が激化するデメリットもある。情報が溢れる社会に生きることは、未来を模索する中・高校生にとっては不安も多いだろう。だが情報への向き合い方を知っていれば怖れることはないだろうと脳科学者 瀧靖之先生は言う。今、社会は変わり始めている。新たな時代を生きる中・高校生に向けて、瀧靖之先生が応援とメッセージをおくる。

今回の記事は、未来を模索する中・高校生に向けた脳科学者 瀧靖之先生からのメッセージだ。現代の中・高校生は生まれたときからインターネット環境があり、日常的にたくさんの情報に触れている。溢れる情報から何を選択すべきなのか? 社会が急速に変化している今こそチャンスだと語る瀧先生の真意はどこにあるのか? 情報過多な時代の中で悩み迷う中・高校生にとって、瀧先生からのメッセージはこれからの時代を生き抜くための大きなヒントになると思う。そして保護者の皆様にも、情報社会を生きる子供と向き合うために大切だと思うことを瀧先生からお届けする。
情報社会のメリットとデメリット
現代社会はまさに情報社会です。インターネット環境からの情報が日常的に溢れていますし、中・高校生である皆さんにとってはSNSなどから情報を得ることは生活に欠かせないものとなっているでしょう。
現代社会が情報過多な環境であるとはいえ、メリットはあると思っています。それは、知識の享受です。インターネットを使えば、さまざまな知識を世界中から簡単に手に入れることができますよね。勉強の仕方も趣味の楽しみ方も、知りたいと思う情報のほとんどが入手可能と言えるでしょう。
しかしながらデメリットもあるように思います。誤解や衝突が起こりやすいリスクがあるように感じています。SNSなどは情報にも人にも繋がりやすい一方で、誤解や衝突も起こりやすいものです。中・高校生の皆さんはSNSを主に、時にはメールなどで情報のやり取りを済ませることも多いかと思いますが、文字だけの情報では伝わりにくいニュアンスも多く、どうしても誤解や衝突が起こりやすいと思うのです。皆さんにとってスマートフォンなどのツールは欠かせないものだと思いますが、Face to Faceで顔を見ながら話す機会が減ると、相手の気持ちを理解しながら自分の思いも伝えるというコミュニケーション力が低下してしまう傾向があるかと思います。それは「とても憂慮すべきことだな」と考えています。

インターネット環境が現代ほど整備されていなかった時代は、自分との比較対象を学校や地域という小さな世界の中から見つけていたものです。しかし、今はインターネットを通して世界中に自分の比較対象を見つけることができるようになったと言えるのではないでしょうか。
足が速い。
サッカーが得意。
勉強ができる。
このように、ちょっとした自信を持っていても「上には上がいる」という情報を安直に入手できるため、自己肯定感を保てず、後ろ向きになってしまう人もいるかもしれません。多感な年ごろでもある中・高校生の皆さんにとって、他人との比較は気になるものだと思います。ただ、大事な成長の時期に自己肯定感を保つことは大切であり「自分との比較対象を必要以上にインターネットの中に求めることをしなくてもいいのではないか」と思っています。
インターネットから情報を得ることにはメリットもあると思っています。
誰もがさまざまな情報にアクセスできるため、相対的にレベルが上がるということはメリットの1つと言えるでしょう。しかし、同時に差がつきにくくなるという状況が生まれ、そのため現代社会はあらゆる面で競争が激化しているとも考えられるのです。
このような社会の中で未来を模索することは、中・高校生の皆さんにとっては不安が多いことでしょう。しかし、時間を巻き戻すことはできませんし、技術が発達した現代社会だからこそ素晴らしい点はたくさんあると思います。大切なことはメリットもデメリットも含め、現状をきちんと認識しておくことではないかと思っています。
現代社会においては知識の享受が簡単になり、誰もが情報にアクセスできるメリットがある一方、競争が激化しコミュニケーション力や自己肯定感が低下してしまうデメリットの可能性も考えられ、このような環境に自分が生きているということを冷静に理解しておくことが大切かなと思うのです。知っておくことでデメリットに安易に翻弄されることなく対処することができると思いますし、メリットをしっかりと享受できるマインドセットを意識することも可能でしょう。
勉強する意味とは? その先に何があるのか

脳科学的な視点から少しお話ししましょう。
中・高校生の年代では、前頭葉が発達し高次認知機能が高まると言われています。
考える、判断する、記憶する、コミュニケーションをとる、クリエイティブな発想をするなど、いわゆる人間らしい機能の発達が進んでいくのです。この時期にたくさん勉強をしたり、芸術活動をしたり、友人や知人と会話をすることは、新しいものに挑戦したり変化していこうとする力を高めることに繋がるでしょう。
ですから、皆さんの年代では学校での勉強や友人との語らいを大いに楽しんでほしいと思っていますが、では中・高校生の皆さんにとって「勉強する」意味とはなんだと思いますか?
私は2つあると思っています。
自分の可能性を広げる。
将来、素晴らしい仲間を得る。
学業成績は、将来の職業選択の幅を広げることに繋がっていくだろうと考えています。それは、自分の可能性を広げることでもあると思っています。勉強をして多様な知識を身に付けることで、進学先や就職先などの選択肢は広がるでしょう。もちろん、ここでいう勉強とは学業成績だけの話ではありません。例えばサッカーや野球などのスポーツの世界でも、誰よりも努力することでプロへの道が拓ける可能性は高まりますし、技術力を高めれば所属できるチームの選択肢も広がると思います。自分のレベルを上げたことで進んだ先には、同じような志を持った仲間がたくさんいることでしょう。彼らの存在は、皆さんにとって良い刺激となるはずです。そして皆さん自身もまた、仲間に刺激を与えられる存在になりたいと願うのではないでしょうか。素晴らしい仲間と切磋琢磨する時間は、皆さんが歩んでいく人生の可能性をさらに広げてくれるでしょう。
毎日、学校や塾に通う皆さんの中には、「勉強=テストで良い点を取る」という近視眼的な考えになっている方もいるかもしれませんね。勉強すること、努力することは、今の皆さんにとっては楽しいものではないでしょう。しかし、時には勉強の意味を大局的に捉え、その先に広がる自分の未来について考えてみることで、勉強への向き合い方が変わることもあると思いますよ。
目標を明確にすれば到達も早い
とはいえ、大切だと分かっていても思うように進まないのが勉強ですよね。
勉強は孤独な作業になりがちですし、集中力が長続きしないという人もいるでしょう。
そんなときは、目標をできるだけ明確にしてみると良いかと思います。
実は目標を明確にすればするほど、そこに最短で辿り着く可能性が高まると考えられているのです。
人生は選択の連続です。
私たちは「やる」「やらない」を常に選択しながら生きています。
自分がどうありたいかという軸が定まっていないと、選択は安易な方向に流れてしまいがちです。だからこそ、自分の中で目標を明確にすることが必要だと思うのです。
自分が辿り着きたい目標が明確であれば、「やる」「やらない」の選択を迷うことはないでしょう。
目標を決める際は、○○大学に行きたいとか△△チームに所属したいなど、目先の進路を思い描くことでも構いませんが、できればそこに行ってから何をしたいのかというところまで明確にイメージできればさらに良いかなと思います。
そうすることで、例えば「大学で××を研究して社会に貢献する」など具体的な自分の姿と今の自分を対比して考えられるようになると思うのです。これは心理的対比と呼ばれ、目標に到達するための努力のモチベーションになっていくでしょう。
勉強は内発的動機がとても大切だと思っています。自分の中にやりたいという自発的な気持ちがないと続きませんし、身に付かないと思います。目標を明確にすることで目標までの最短ルートを無意識に選ぶ可能性が高まると考えられていますので、中・高校生の皆さんには、目標の明確化にぜひチャレンジしてもらいたいと思っています。

今、皆さんが生きている社会は、大きく変わり始めています。ビジネス界においては古い体制が崩れ、ベンチャー企業が多く台頭しています。クリエイティブな世界においても同様で、もはや会社の規模は大きな問題ではなくなったように感じています。アイデアと行動力で道が拓ける時代となってきたのです。これこそ、知識と情報を誰もが享受できる現代の情報社会がもたらした大きなメリットと言えるのではないでしょうか。
未来を模索する中・高校生の皆さん、スーパーチャンスの時代です。
デメリットに振り回されず、この時代を生きているメリットを存分に謳歌して欲しいと思っています。そして、そのためには今、自分は何をすべきなのかを考えてみる。時にはそんな時間を持ってみるのも良いですね。皆さんが新たなマインドセットで時代と向き合うことを期待しています。
- 瀧 靖之(たき やすゆき)
- 医師 医学博士 脳科学者
東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターのセンター長。東北大学加齢医学研究所教授。これまで脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達、加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。読影や解析をした脳MRIはこれまでに16万人にのぼる。『「賢い子」に育てる究極のコツ』(文響社)は10万部を超えるベストセラーに。ピアノ演奏やチョウの採集など多彩な趣味を持つ。一児の父。
取材編集:帆足泰子










