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樹木の葉が大気中マイクロプラスチックを捕らえる――驚きの「森林フィルター」

2026.04.10

大気中を浮遊するマイクロプラスチックをまるでフィルターのように捕捉している森林の機能が日本の研究者によって実証され大きな話題となっている。樹木はどのように大気中のマイクロプラスチックを捕捉しているのだろうか。また、どの程度の量が捕捉可能なのだろうか。
世界中でプラスチックによる様々な問題と向き合いながらも大きな削減には至っていない現況にあって、日本国土の約2/3、さらには世界の陸地の約1/3を占める森林が持つ力を、改めて考える。

環境に影響を及ぼすマイクロプラスチックの存在は、すでに多くの人に認識されるようになった。早急な対策が求められてはいるが、プラスチック依存から脱する有効な方法をいまだに見つけることができていない。さらに深刻なことに、より小さいナノサイズのプラスチックが人体に入り込んでいるという衝撃的な研究発表もなされて出している。
プラスチックは様々な用途に応え広く社会に浸透しており、その利便さを考えると私たち人間がプラスチックに依存する世界からすぐに脱することはできないかもしれない。しかし、これ以上問題を放置し続けるのではなく、何か策を講じるべきことはあるはずだ。
その一つの策が森林の力を借りることだ。

そこで、予ねてより大気中マイクロプラスチックの研究(※1)についてご説明いただいた早稲田大学 理工学術院 創造理工学部 環境資源工学科の大河内博教授が世界で初めて実証した調査、「森林が大気中マイクロプラスチックを捕捉していること」について改めて教えていただくこととした。

陸域、海域から大気中に排出されたマイクロプラスチックは、気流に乗り地球表層を巡ってしまう。
「日本女子大学の研究グループと一緒に行った調査で、森林が大気中マイクロプラスチックの吸収源として機能する可能性があることを明らかにしました」
マイクロプラスチックといえば「海に浮遊したり沈殿したりするもの」を思い浮かべる方が多いかもしれないが、大河内さんの研究チームによると大気中にもマイクロプラスチックは存在しているという。海や陸域から舞い上がったマイクロプラスチックは風に運ばれ、自由対流圏にまで上がると気流に乗って遠くに運ばれていくのだ。実は、大気中マイクロプラスチックは地球規模でプラスチック汚染を広めているワケだ。

大河内さんは大気中マイクロプラスチックをAMPs(Airborne microplastics)と名付け、研究を続けてきた。これまで国内外で森林域の大気中マイクロプラスチックを研究した例がなかったそうだが、今回の調査で森林樹冠(※2)によって大気中マイクロプラスチックがどの程度、そしてどのように捕捉されるのかについて明らかになったとのことだ。
日本女子大学西生田キャンパスでの調査で、コナラが大気中マイクロプラスチックを捕捉していることを明らかにした。
調査地は神奈川県川崎市にあるに日本女子大学西生田キャンパス。西生田キャンパスは校地面積(293,800 m2)のうち約6割が森林に覆われている。都市部における小規模森林であり、大気中マイクロプラスチックと樹木との関係を調査するには最適の場所であった。この調査、主要樹種であるコナラの葉を採取して行われた。コナラとは、ドングリ(団栗)のなるブナ科の樹木であり、ホダ木(シイタケの原木)などとして利用されてきた日本の森林においては一般的な広葉樹である。

この調査によれば、コナラの葉に大気中マイクロプラスチックが捕捉されるメカニズムは3つのパターンがある。
・ 葉の表面に付いただけ
・ 葉を覆うエピクチクラワックス(葉面に存在する飽和/不飽和脂肪酸で構成されるコーティング構造)に捉えられる
・ 産毛のような突起状のトライコーム(表皮細胞が分化した毛状の突起構造)に捉えられる
以上の3つだ。

このメカニズムを踏まえ、コナラの葉に捕捉された大気中マイクロプラスチックを「超純水洗浄、超音波洗浄、アルカリ洗浄」で順次洗浄し、計測する手法を日本女子大の研究チームが確立させ、「超純水洗浄」では葉の上に捕捉されたマイクロプラスチック、「超音波洗浄」ではトライコームに捕捉されたマイクロプラスチック、「アルカリ洗浄」ではエピクチクラワックスに捕捉されたマイクロプラスチックがそれぞれ洗浄され、コナラの葉によって大気中マイクロプラスチックがどのくらい捕捉されたかを計測することが可能かとなったのだ。

森林が大気中マイクロプラスチックをフィルターのように捕捉していることが分かった。
葉面の構造を考え、3つの方法で順次洗浄することを考案。大気中マイクロプラスチックの捕捉量を推定した。
大河内さんの研究室がある東京都新宿区の西早稲田キャンパスでソウセイギリを栽培し、キャンパス近くの幹線道路(明治通り)でイチョウやクスノキなどを観察。大気中マイクロプラスチックの樹木ごとの捕捉量を調べている。


この調査から、コナラの葉の面積1平方メールあたりに1,000個のマイクロプラスチックが存在しているという結果を得ることができた。そして日本全体のコナラ林は約32,500 km2と考えられ、日本では年間約420兆個(※3)といった膨大な量の大気中マイクロプラスチックがコナラによって捕捉されていると推計された。その結果から大気中マイクロプラスチックの吸収源として森林が機能している可能性が高いことが分かったのだ。
「二酸化炭素の吸収に森林が役立っていることは知られていましたが、今回の研究を通して森林樹冠が大量の大気中マイクロプラスチックを捕捉していることが分かりました。落葉樹の場合、葉面に捕捉されたマイクロプラスチックはいずれ落ち葉となり土壌に落ちるので、森林生態系に与える影響を引き続き研究する必要があります。ただ樹木の可能性には大いに着目すべき点があると考え、どの樹種が大気中マイクロプラスチックを多く捕捉するかを調べることにしました」

大河内さんは現在、イチョウやクスノキ、ユリノキなどいくつかの樹種を調べているそうだが、ソウセイギリ(早成桐)(※4)という樹種に最も注目しているという。
注目されるソウセイギリとは、通常の樹木より早く成長する早生樹の1種で、例えばスギの木は間伐材利用ができるまでに20〜30年、建築利用なら40〜50年ほどかかるのに対して、ソウセイギリは間伐材利用なら5年程度と、およそ4倍のスピードで成長するそうだ。そのため植林から伐採までの期間が短く、また切株から再発芽する「萌芽再生」の特徴を持つため伐採後に再び植林する手間も省けるため、新しい林業のあり方を模索する林業関係者から注目を集めているのだ。さらにソウセイギリは成長過程においてスギなどと比べて二酸化炭素の吸収能力が高いという特徴もあり、脱炭素の観点からも興味を示す自治体も増えている、まさに注目すべき存在なのだ。

「これらの特徴に加えてソウセイギリは葉が大きく、葉の裏側にトライコーム(毛状の突起構造)が密集していることもあり、東京都の代表的な街路樹であるイチョウ、ユリノキ、クスノキなど他の樹種と比べて大気中マイクロプラスチックを多く捕捉することが分かってきました。例えば、ソウセイギリを街路樹や公園、さらに工場周辺に植えることで二酸化炭素の吸収だけでなく、大気中に飛散してしまったマイクロプラスチックを捕捉してくれるのではないかと期待しています。もちろん社会全体でプラスチック製品の使用を減らしていくことが何より大事ですが、私たち人間がその便利さを今すぐに手放すことは難しいでしょう。だからこそ樹木が持つ力に注目してみることも必要なのではないでしょうか」

2024年7月(左)に苗木だったソウセイギリが、1年後の2025年7月(中)には大きく成長し、10月(右)にはさらに成長をしている様子が分かる。写真に写っている学生の身長は約180cm。
ソウセイギリ(早成桐)は、コナラやイチョウなどよりも大気中マイクロプラスチックの捕捉量が多い。トライコームの形も星状毛なので、大気中マイクロプラスチックを捕捉しやすいと考えられている。

早稲田大学では日本医科大学との連携も強化している。今後、大河内さんは大気中マイクロプラスチックが及ぼす人体への影響について共同研究をスタートさせるそうだ。
「マイクロプラスチックが人体に及ぼす影響はまだ分かっていません。モデル研究によると、人体に取り込まれる経路として呼吸に伴う大気からが最も多いと言われています。飲食では尿や便として大部分が体内から排出されますが、肺に入ると長期間体内に留まります。大気中マイクロプラスチックについてさらに研究を深めて、社会への警鐘と私たちが取り組むことができる前向きな提案につなげていきたいと思っています」

コナラやソウセイギリなどの樹木が大気中マイクロプラスチックを捕捉するといった研究は、様々な問題を抱えるプラスチックに対する希望の光でもある。プラスチックに関してはさまざまな問題と対策が話題となるが、森林や樹木の力を活用するといったことも選択肢の1つになりそうだ。
様々な目的によって農地開発や伐採、さらに森林火災など地上(陸地)の約1/3を占める森林を私たちは考えを改め、その潜在力を最大限に活用するためにも守り続けていく必要がある。一方、利便さの恩恵に甘んじることを正し、プラスチック削減に向き合う姿勢だけは忘れてはいけない。

※2:樹木上部の葉や枝が茂った部分の総称。

※3:大気中マイクロプラスチックは葉表面だけでなく、裏面のトライコームでも捕捉されていることが分かったため、葉面積指数を2倍にして計算するなど、複雑な計算を行い導き出している。

大河内 博(おおこうち ひろし)
早稲田大学 理工学術院 創造理工学部 環境資源工学科教授。
富士山での越境大気汚染や大気中マイクロプラスチックの観測や動態を研究する。また近年は香りに含まれる成分が人体に与える影響を研究する香害研究にも取り組むなど、さまざまな環境汚染に関する研究を精力的に行っている。

画像・資料提供:大河内博、早稲田大学
取材編集:帆足泰子