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海に沈むマイクロプラスチック
その堆積はすでに太平洋沖合にまで及んでいる

2026.04.27

海洋に流出するプラスチックの約4割は海水より比重が重い沈降性のプラスチックだという。その多くは海岸などで紫外線や波の影響を受け「沈降性マイクロプラスチック」となり、海洋に流出し海の底に沈んでいくのだが、北太平洋では河口から100km以上も離れた沖合にまで流され沈んでいる可能性まで指摘されている。プラスチックによる海洋汚染は、一体どこまで広がっているのだろうか。

私たちが暮らす陸域からは、河川を通して多くのプラスチックが海へと流れ出ている。これら海洋プラスチックの一部は沿岸域に流れ着き海岸を埋め尽くす漂着ごみとなり、また一部は海を漂い続ける中で紫外線や波の影響を受け、小さく砕けマイクロプラスチックとなっていく。海の表層を漂うマイクロプラスチックは海洋生物が餌と間違えて摂取することもあり、食物連鎖を通してやがて人間の体内に入り込むと危惧されている。
海洋プラスチックに関するこのような一連の流れは、すでに多くの研究者から指摘されているので、その対策の必要性を感じている人は多いことだろう。しかし、懸念すべきは海の表層を漂うプラスチックだけではない。海に放出されているプラスチックの多くは海底に沈んでいる可能性があると、東京大学・大気海洋研究所の伊藤進一教授は語っている。

「海洋プラスチックに関するこれまでの研究は、海洋の表層を漂う浮遊性プラスチックに注目したものが主体でした。しかし、海洋に放出されているプラスチックの約4割(※1)は海水より比重が重い沈降性であると指摘されており、マイクロプラスチックとなって海底に堆積しているのではないかと研究者の間では心配されていました。ただ海底の調査は簡単ではなく、どの海域にどの程度のマイクロプラスチックが沈降しているかは不明なままでした」

そこで伊藤さんたち研究グループは、1951年から2015年の65年間に北太平洋の海底に堆積した沈降性マイクロプラスチックの分布を「粒子追跡モデル」を用いて推定することに取り組み始める。粒子追跡モデルとは海の中の流れ、すなわち海流を再現したモデルの中で仮想の粒子がどのように流れるかを調べるもので、このモデルを用いることでマイクロプラスチックがどこから海に入り、どこに流れていくのかを調べることができるのだという。

「シミュレーション計算にはスーパーコンピュータを使用しましたが、それでも計算に約数カ月の時間を要しました。手間と時間がかかる研究ということもあり、沈降性マイクロプラスチックの海底への堆積に関して粒子追跡モデルを用いて大規模に推定したのは、世界初の試みでした」

a:1951年から2015年の間に海底に降り積もった沈降性マイクロプラスチックの分布密度。 Xu et al. (2025, Marine Pollution Bulletin)より。
b:こちらは1951年から2015年の間に海底に降り積もった沈降性マイクロプラスチックの平均粒径。 aとbともに、東南アジア周辺からの流出による影響が大きいことが分かる。 Xu et al. (2025, Marine Pollution Bulletin)より。

伊藤さんたち研究チームによる沈降性マイクロプラスチックのシミュレーションについて、さらに詳しく説明したい。

1950年代ごろから世界的にプラスチック利用が盛んになっていった背景を踏まえ、1951年からの2015年までの65年間をシミュレーション期間として設定(※2)。北太平洋を囲む10,565の河川から流出するプラスチック量の推定値(2010年を対象に推定/Lebreton et al., 2017)を使用し、季節変動としては月ごとの河川流量を考慮、そして1951年から2015年までの年ごとの変化は、各国のGDP(国民総生産)に比例してプラスチック使用が増加するものと仮定した。マイクロプラスチックのサイズに関しては、砂浜で観測したデータを集め、サイズごとの放出量を推定。河川から流出するプラスチックの約4割が沈降性であるという研究結果も踏まえ、「河川から放出された沈降性プラスチックが河口付近で細分化され沈降性マイクロプラスチックとして海洋に放出される」という仮定のもとにシミュレーションを実施した。

このような緻密な条件設定で計算した結果、沈降性マイクロプラスチックの約22%が沿岸域の放出地点から100km 以上沖合に堆積していること、2000 年代以降に急速に堆積が進んでいることが分かったという。
「沈降性マイクロプラスチックが予想以上に海流に流されていて、外洋にまで及んでいるという結果を得た時は驚きました。北太平洋沖合の海底に、すでに多くのマイクロプラスチックが蓄積している可能性があるのです。ただ人類がプラスチック依存から脱却できないこと、未だに不適切な廃棄が無くならないこと、このような現実を考えれば、残念ながらこの結果は不思議なことではありません」

海底に堆積した沈降性マイクロプラスチックの流出元となる地域組成の時間変化に基づくクラスター解析によって区分され、色分け表示された海域。Xu et al. (2025, Marine Pollution Bulletin)より。
現在までの沈降性マイクロプラスチック堆積総量を1とした場合の、各海域における時間的堆積履歴(iからⅵの色は海域別の色分けを参照)。どこも1990年代以降大きく増え始め、海域によっては2000年代以降に堆積が加速している様子が分かる。 Xu et al. (2025, Marine Pollution Bulletin)より。
1980年代の体重減少は、マイワシの資源量が爆発的に増加し餌料プランクトンをめぐる競合が激化したためと推定。しかし2010年代の体重減少は、資源量は中程度に増加したが、地球温暖化による餌料プランクトン減少によって餌を巡る競合が起こったためだと推定されている。 Lin and Ito (2024, Fish and Fisheries)より
伊藤さんは『温暖化による日本周辺の魚類の小型化』(※3)についても研究発表している。近年の温暖化によって海洋表層の温度が上がり、下層の冷たい海水と混ざりにくくなり、下層から表層に供給されるはずの栄養塩が減少。表層の植物プランクトンは太陽の光と下層から供給される栄養塩をもとに光合成を行い繁殖し、海の生態系を支えています。その植物プランクトンを食べて動物プランクトンが成長しますが、栄養塩の供給が減少すると魚の餌となる動物プランクトンの生産が抑制されてしまう。このように生態系の基盤が崩れると、海洋生物の間で餌をめぐる競合が生じ、魚類の小型化(体重減少)につながったのではないかと結論づけている。
「温暖化が海洋生態系の根幹であるプランクトンに影響を及ぼしていることは大きな懸念点です。加えて、いま心配しているのは、マイクロプラスチックによる影響です。餌と間違えてマイクロプラスチックを摂取してしまうと、プランクトンは栄養不足になります。温暖化によってプランクトンが減少していることを考えると、プランクトンの栄養不足は海洋生物にとって更なる打撃です。つまり、今後も海洋マイクロプラスチックが増え続けるとすれば、プランクトンを餌にしている魚の小型化が加速していくかもしれないのです」

表層に浮遊するマイクロプラスチックに加え、沖合に沈む沈降性マイクロプラスチック、そして温暖化による影響が「海の環境を大きく変えていく可能性がある」と伊藤さんは言う。

「極方向への移動、季節性の変化、体長サイズの縮小。これらは温暖化が海洋生物に及ぼす3大法則と言われています。温暖化によって引き起こされる海水温上昇、貧栄養化、貧酸素化、海洋酸性化、海面上昇などが要因となっているのですが、海洋生物への影響はどれか1つの要因による場合もあれば、多くの要因が複雑に影響しあっている可能性もあるでしょう。いずれにしても海洋に流出したプラスチックが温暖化要因に加え、海洋生物に何らかの影響を及ぼす要因になっている可能性は高いと思われます」

残念ながら、プラスチックによる海洋汚染が当たり前のように受け止められつつあり、社会全体でも海洋プラスチックへの関心が薄れつつあることを、伊藤さんは危惧している。
「未来の地球では、プラスチックが堆積した地層が海から発見されることになるかもしれません。そして、そのとき海洋生態系にどのような影響が出ているかは、今は誰にも分かりません。ただ深刻な状況になっていることは確かでしょう」

人類にさまざまな恩恵を与えてくれる海。人間生活に多くの恩恵を与えてくれるプラスチック。私たちにとってはどちらも大切な要素である。ただ一度失われてしまった海の環境を取り戻すことは、おそらく難しいだろう。静かに進む海の環境変化を軽視してはいけない。そして私たちは、一人ひとりがプラスチックにどう向き合い行動すべきかを考え続けていく必要があるだろう。

※2:研究に必要なさまざまなデータが漏れなく揃う期間が、2015年までの65年間であった。

伊藤 進一(いとう しんいち)
東京大学大気海洋研究所 海洋生命システム研究系 海洋生物資源部門 教授。
研究テーマは「海洋環境が海洋生物資源変動に与える影響の解明」。現在、水産海洋学会会長、国立研究開発法人審議会 海洋研究開発機構部会 部会長などを兼任。
2024年度は気候変動適応地域づくり推進事業アドバイザーも務めた。

画像・資料提供:伊藤進一、東京大学
取材編集:帆足泰子