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温暖化が地球を凍らせる!?
1,000~2,000年規模で循環する「海洋大循環」がもたらす影響とは?

2026.05.25

北極域は温暖化による影響がとても大きい。氷が融ければ、海水面が上昇する。海水面が上昇すれば、海抜の低い沿岸地域においては陸地が海に沈むため、北極域の変化を世界が注視している。しかし憂慮すべきは海水面上昇だけに留まらない。北極の氷の融解は豪雪や豪雨、さらには極端な寒波を引き起こすなど、気候の極端化に拍車をかけるとみられている。さらに地球規模の循環システム「海洋大循環」にも影響を及ぼしているという。
北極域の温暖化は地球上の平均の2倍以上の速さで進行しているとみられ、この北極域では何が起こっているのだろうか。

世界各地で氷が融けている。地球温暖化によって氷河・氷床が融け、海水面の上昇などさまざまな環境変化を生じさせている。特にアルプスやヒマラヤなど高く険しい山々の景観を作り出す山岳氷河が急速に融けていることは周辺に暮らす人々への影響も大きく、対策が急がれている。そして今、さらなる注視が必要だと言われているのが北極域の変化だ。北極域への温暖化の影響は、すでにかなり深刻な状況にあるという。
「北極域は温暖化による気温上昇の影響を大きく受けています。グリーンランドでの私たちの研究では1年間で1m、場所によっては5mも氷河が融けて薄くなっています。この大きな原因として、以前と比べて夏の気温が高くなっているため」 と説明される北海道大学・北極域研究センターのセンター長である杉山慎さん。

海氷が大きく縮小した2016年夏の北極域を観測した人工衛星画像。黄色線は1981年〜2010年の平均的な海氷の広がり。北極域の氷が融ければ地球規模の影響を与えるものの、新たな航路や資源採掘といった観点から関心は高い。しかし、多くの懸念点があることを知っておくべきだろう。
グリーンランド沿岸部の氷河。島のほとんどが氷に覆われているグリーンランドの面積は日本の約6倍。グリーンランドの氷がすべて融けると世界の海水面が「7m上昇する」と考えられている。

北極点を中心に一般的には北緯66度33分以北を「北極圏」という。温暖化の影響を受けて世界各地で気温上昇がみられるが、その気温の上がり方は一様ではなく、北極海とその周辺の陸域を含む北極域は最も顕著に温暖化の影響を受けている地域といえる。近年、日本でも平均気温が上昇していることが問題となっているが、北極域の方が温暖化の影響を大きく受けているのだ。
「北極では北極海が北極点の周りに広がっていて、冬になると海の水が凍ります。そして夏になると海氷の一部は融けるのですが、いま夏に融ける海氷の量が増えています。海氷の減少は北極域の大きな変化の1つです」

北緯点を中心に、カナダやアラスカ、ロシアの一部も含めた円内(北側)を北極域という。
1951〜1980年の平均気温に対する2022年の気温の変化を見ると、北極域の気温上昇が大きいことが分かる。

温暖化の影響による気温上昇は、平均2,000m以上の厚さの氷に覆われているとされる南極においては限定的とされるのに対して、なぜ北極域ではより温暖化の影響を強く受けてしまうのだろうか。その理由こそ、まさに北極海の海氷にあると考えられている。
北極点の周りの海は、これまでは年間を通して海氷で覆われていたため、一面に広がった白い海氷が太陽からの光を跳ね返し気温の上昇を抑えてきた。ところが海氷が融けはじめるとそこに海が現れる。海は氷よりも太陽光をより多く吸収する性質を有するため、水温を上げ気温も上昇させる。その結果、北極域の氷河・氷床、海氷が融けていく。氷が融ければさらに海が現れ、太陽光を吸収し、ますます氷が融けていく。このような連鎖が現在の北極域に起こっている、と杉山さんは言う。そして、杉山さんたち研究者の間では、今世紀のうちには夏の北極海から海氷が完全に無くなる年も出てくるだろうと考えられているそうだ。

さまざまな地球表面の光エネルギー反射率。杉山さんによると雪や氷による太陽からの光エネルギーの反射率は、とても大きいのだという。地球温暖化が進行しないためにも地球表面がある程度の氷に覆われていることが大切なのだ。
温暖化の影響による気温上昇は、平均2,000m以上の厚さの氷に覆われているとされる南極においては限定的とされるのに対して、なぜ北極域ではより温暖化の影響を強く受けてしまうのだろうか。その理由こそ、まさに北極海の海氷にあると考えられている。
北極点の周りの海は、これまでは年間を通して海氷で覆われていたため、一面に広がった白い海氷が太陽からの光を跳ね返し気温の上昇を抑えてきた。ところが海氷が融けはじめるとそこに海が現れる。海は氷よりも太陽光をより多く吸収する性質を有するため、水温を上げ気温も上昇させる。その結果、北極域の氷河・氷床、海氷が融けていく。氷が融ければさらに海が現れ、太陽光を吸収し、ますます氷が融けていく。このような連鎖が現在の北極域に起こっている、と杉山さんは言う。そして、杉山さんたち研究者の間では、今世紀のうちには夏の北極海から海氷が完全に無くなる年も出てくるだろうと考えられているそうだ。
北極域から中低緯度方面に寒気が流入することで「温暖化なのに寒波・豪雪」という状況が生まれてしまう。
北極域で融けているのは海氷だけではない。世界最大の島・グリーンランドでは、その氷床も融け出している。氷が融ければ海水面の上昇が気がかりではあるが、憂慮すべきことは他にもある。実は北極域が暖まることで世界の気象に大きな影響が出ているのだ。
日本では最近、猛暑や豪雪、豪雨などの極端な気象に見舞われることが増えている。その原因の1つが北極の温暖化にある、と杉山さんは言う。
「北極域が冷えた地域のままであれば、冷たい大気は北極域にとどまっているのですが、北極域が暖まると冷たい大気が流れ出てしまうのです。すると偏西風が大きく蛇行し、北極域に本来あるべき冷たい大気が中緯度辺りまで流れてくることもあります。北極域があたたまると周辺地域が寒くなる、という現象です。最近の日本で豪雪などの極端な気象が増えたのは、北極域の温暖化による偏西風の蛇行が原因の1つだと考えられています」
淡水である氷が融けて海に流入することで「海洋大循環」に変化をもたらす可能性が指摘されている。「海洋大循環」は赤道付近の熱を運ぶだけでなく、深層の栄養塩を表層に運ぶ役割もあり、それがなくなると現在「豊かな漁場」と言われている場所にも今後変化が生じるかもしれない。
北極域の温暖化が地球に与える影響は「海洋大循環」にも及んでいる。この「海洋大循環」とは、1000〜2000年かけて海を巡る地球規模の巨大な海流システムのこと。北大西洋にあるグリーンランド沖や南極海で冷やされて重くなった海水が深海へ沈み込み、インド洋や太平洋の深層を巡り、長い時を経て太平洋の表層に上がってくる。海洋大循環は極域から低緯度域へ向けて冷たい海水を、低緯度域から極域へ温かい海水を運ぶため、地球全体の気候に大きな役割を果たしていると考えられている。しかし温暖化の影響で、今後はグリーンランド沖での沈み込みが弱くなっていく可能性が高い、と杉山さんは言う。
「氷は淡水(真水)でできていますから、北極域の氷が融ければ海水の塩分濃度は下がります。海洋大循環は海水温が下がり塩分濃度が高くなることで海水の密度が上がり沈み込むのですが、北極域の氷河・氷床の融解で海水の塩分濃度が薄まり、海洋大循環のシステムに変化が起き始めていると考えています。沈み込まなければ循環そのものが止まってしまいます。低緯度域からの温かい海水が運ばれてこなければ、将来は寒冷な気候帯になる国々が増えることも想定できるのです」

1000年規模で循環する「海洋大循環」に温暖化が与える影響は、現時点では分からないことも多いが、地球の中で何かが変わり始めていることは確かなようだ。温暖化が進んだ結果、地球が凍りつく。そんな未来がくるのかもしれない。杉山さんは北極・南極の極域の現状、地球上の氷河・氷床の変化について、もっと関心を持ってほしいと力を込める。
「北極や南極の氷の世界は、私たちの普段の生活からは少し遠い存在かもしれません。しかし温暖化が極域の環境を大きく変え始めていることは間違いありません。氷河・氷床がとけることを止めるために、我々人類がいま何をすべきなのかを考えてほしいと思っています。そして、もし機会があればグリーンランドやアラスカ、スイスのアルプス、南米のパタゴニアなど、世界に点在する氷河・氷床を見に行ってほしいのです。その美しさと迫力に圧倒されると思いますし、この氷の世界は私たちが守るべき大切な自然の1つであると感じると思います」

杉山さんたちがグリーンランド観測の拠点を置く村・カナック。近年は温暖化で氷の融ける量が増え、大雨が降るようにもなり、沿岸の村では洪水の被害などを受けるようになってきた。

地球上の氷河・氷床がとけていることは以前から指摘されてきた。温暖化が大きな影響を与えていることは明らかではあるが、私たちは未だに温室効果ガスの排出を止めることはできていない。そして今もこれからも温暖化によって私たちの想像を超えて氷を融かし続けていくのだろう。氷が融けてしまった未来の地球で、果たして私たちは穏やかな暮らしを望めるのだろうか。地球上に氷河・氷床があることの意味を改めて考えていきたい。

画像・資料提供:杉山慎
取材編集:帆足泰子

杉山 慎(すぎやま しん)
北海道大学 北極域研究センター センター長、低温科学研究所 氷河・氷床グループ 教授。パタゴニア、南極、グリーンランドなどを舞台に、氷河・氷床に関する物理現象と変動メカニズムの解明に取り組んでいる。著書に「南極の氷に何が起きているか」(中公新書)など。