Story

#005 奥山英治さん
「自然を大切にすることは、自然を身近にすること。」

2025.02.03

見て触って生き物に興味をもつ
日本野生生物研究所代表・奥山英治さんと見る釣りの景色

幼いころから自然で遊び、自然を知ることをライフワークとしてきた奥山英治さん。「触らないと何もわからない!」をモットーに、現在はネイチャーガイドとして自然観察や生き物のおもしろさを伝えている。そんな奥山さんの「釣りをする休日」に密着させてもらった。

身近だからこそ深く知りたくなっていく

栃木県のレジャー施設「モビリティリゾートもてぎ」にある「ハローウッズの森」に、子どもたちに自然のすばらしさを紹介する研究室「日本野生生物研究所」を構える奥山英治さん。人と森をつなぐネイチャーガイドとして活動し、たとえば稲刈り体験プログラムでは田んぼを取り囲む里山やそこに棲む水生昆虫まで、子どもたちの興味に沿って「おもしろい!」を引き出すガイドを行っている。そんな広い見識のルーツは、幼少時代にある。

「親父が昆虫や植物の図鑑を作っていたから、小学生のころから時々手伝いをさせられていて。資料として必要なカマキリを捕ってくるとすごく褒められる。この繰り返しで褒められながら育ってきました。これが自分のなかで勲章みたいに『よい体験』になっているんです。親父の影響が強かった気がします。学校では昆虫博士なんて呼ばれたりもしていましたね。」

「中学高校のころ、石神井公園で学校をサボっていたら(笑)水鳥のバードウォッチングしているおばあさんと妙に仲良くなったんですよね。『日本の水鳥は種類が少ないからあっという間に覚えられるわよ!』と。そんな出来事がきっかけで鳥にも興味が湧いてきたんです。やっぱり身近な生き物を覚えるっていうのがハマったかな。」

身近にいる生き物は、だれでも知っているし、行けば必ず観察できる。だからこそ余計に深く知りたい、もっとだれよりも知りたいと、飼育に夢中になっていった。

「いまは水生生物研究室を任せてもらっていて、仕事としても生き物の世話をしていますが、やっぱり生き物を深く知るには飼育するのが一番。当時、淡水魚はほとんど飼っていたし、海水魚も掬って持って帰っていたし、虫もなんでも飼育して……。本よりも触って覚えていったものが大きいですね。」

すべて遊びなんだよね

高校卒業後は小学館のロケバスの運転手の仕事をするようになり、アウトドア雑誌『BE-PAL』の専属運転手として多くの現場を支えるようになった奥山さん。ロケに同行しながらフライフィッシングを見よう見まねで覚え、撮影時に必要なヤマメを釣ったり、料理ページの飾りの花を集めたりと重宝がられたという。

「あのころは雑誌のページ数も発行部数もすごかったから、とにかく人員が足りなかったみたいでいろいろ経験させてもらえた。はじめはアウトドアギアのムック本を作る時にライターとして頼まれて。絵も描けるならとイラストレーターにもなって。カメラを買って自分で撮るようになって。そこから「雑魚党」の連載ページも17年くらいやっています。」

「雑魚党」はバス釣りブームに沸いていた時代に「一寸の雑魚にも五分の魂」「天は魚の上に魚を創らず」と、世間の風潮に反旗を翻すべく仲間とともに結成されたそうだ。

「そこでやっていたことも結局はすべて遊びなんだよね。『釣った魚を餌にして違う魚を釣ってみたい』というアイデアを出して、実際に釣る楽しみと飼育する楽しみ。大きいやつは食べて美味しい。この過程で感じたことや覚えたことを発表できる場があって楽しいな、の繰り返しです。」

釣りだけじゃない釣りの楽しみ方

幼いころからの飼育、さらに水中に潜って魚を観察するなど、魚の棲み家も習性も深く理解している奥山さん。この日行っていたハゼの泳がせ釣りやイカダ釣りなど、思いがけない多様な魚種が釣れる意外性のある釣り方が好きだそう。

「釣りはあくまで生き物を得るための手段だから、昔も釣りプロになりたいっていう意識は低かったんだよね。今日も仲間と河口釣りにきていて、彼らはその行為そのものを楽しんでいると思うんだけど、俺はここで釣れなくなってくると、いまみたいに近くで楽しめる自然遊びを探しに行っちゃう。」

自然のすべてが好きだからこそ見えてくる、楽しい視点があるようだ。ロッドは即席の竿立てに立てたまま、ビーチコーミングにも同行させてもらった。

「知らないことを知るのが好きなんだと思う。その時には魚の名前なんかどうでもよくて、じっくり見ていると見えてくる性格がおもしろいんだよね。こいつは砂に潜るんだ、後ろ足しか使わないのか、とかね。」

この日奥山さんに教えてもらったのは砂地に棲むカニの性格。小さな砂玉を綺麗に並べて地面に潜った巣穴もあれば、大きな砂玉を乱雑に投げた雰囲気の巣穴もある。何気なく歩いていた波打ち際だが、視点を変えるとたしかにどんどんおもしろくなっていく。

お子さんに自然遊びをしてもらう上で大事にしていること

たくさん釣れる釣りでないと子どもや初心者は飽きてしまう。そんなふうに考える釣り人は多いと思う。だが奥山さんはそんなすき間時間にもおもしろい気づきをどんどん与えてくれる。

「このクルミはボロボロだけど、これは綺麗に割れている。どうしてだと思う?」「これはよく見ると梅干しやカボチャの種。なんの種だろう?ほかにはどんな種がある?」

こうなってくると、釣れるまでの待ち時間もどんどんおもしろくなってくる。海岸に棒で絵を描いたり、流木でアートを作ったり、延々に遊べてしまう。すっかり夢中になったところで、奥山さんが子どもたちと関わる上で大切にしていることを聞いてみた。

「とにかく褒める。それから質問攻めにする。俺が答え言うの嫌いだから「なんだと思う?」って考えてもらうんです。観察会をした時に「これなんですか?」って聞かれて答えを言っても、帰りにはすぐ忘れちゃう。だからできるだけ言わないようにするのがポイントです。ちなみにクルミはリスが割ると綺麗に真っ二つになるんですよ。」

「釣りをしながらこの河口を観察していると、そこにいるカモメも餌を取るためではなく、体についた塩分が強いから真水で洗いにきているのがわかると思う。同様にスズキもエイも、海水でしか生きていけない体の寄生虫を取るために、ちょっと無理して淡水にきていたりもする。」

新たな視点を手に入れると、釣りという遊びを通して、自然に対する理解がより深まった感覚になる。これがきっかけとなってより深く知りたいと希求する気持ちにつながっていくのだろう。

自然を大切にすることは、自然を身近にすること

「近ごろハローウッズの森にくる子どもたちは、とにかく生き物離れしているように感じる。遊ぶ場所が制限される時代だけど、実際に自然で見て触っていないと想像力もつかなくなってしまう。
YouTubeで見たりして何でも知っているっていう子も多いけど、実際にすべて自分でやって自然で遊んでもらうことで、その環境が守られていくと思うんだよね。」

いつか子どもたちが育って大人になった時に、いま以上にさまざまな環境面の問題が持ちあがるでしょう。その時、子どものころにさかな釣りをした原体験があれば「僕自身は、こう考えるけどなぁ」という気持ちになったり、「子どものころにカブトムシを捕っていた森だから大切にしなきゃ」とか、何か少しでも思ってもらえるかもしれない、「それだけでいいかな」と語る奥山さん。

自然を身近にすることで、ずっと大切にしてほしいという願い。
週末、子どもと気軽な釣り遊びに出たくなる、自然を知らない人と一緒に遊びに行きたくなる、そんな時間を過ごさせてもらった。

「学者のようなことはできないから、自分は間口を広げる係だと思っています。とにかく自分自身が自然を楽しんで、みんなに『なんで楽しいの?』と興味を持ってもらえたら、もうこっちのものですね!」


■プロフィール|奥山 英治

日本野生生物研究所の代表、川遊び集団「雑魚党」の漁労長。「触らないと何もわからない!」をモットーに、自然観察や生き物のおもしろさを伝える。ネイチャーイベントの講師、雑誌連載、テレビ番組の監修など多方面で活躍。イラストを担当した本に、『水辺であそぼう』『里山であそぼう』(ともに農文協)、『虫と遊ぶ12 か月』(デコ)、『大人も子どもも楽しいあたらしい自然あそび』(山と渓谷社)などがある。

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Text by Fuumi Mori
Photograph by Sean Hatanaka

Storyとは「ライフタイムスポーツを楽しむ人たちの物語」

私には私の、あなたにはあなたの。スポーツの楽しみ方は人それぞれ。
⾃然の中で⾝体を動かすライフタイムスポーツを楽しみながら、人生を彩り豊かに過ごしている方は活力があり、魅力にあふれています。 その方たちは決してプロばかりではありません。
このコンテンツ「Story」では様々な楽しみ方で、自然とスポーツとともに日々を過ごしている人たちを取材し、ライフタイムスポーツの魅力とは何かをコンテンツを通して皆さんと一緒に感じていきたいと思っています。