Story

#008 髙橋菜々さん
「勝ち負け」よりも「楽しい」が一番。スポーツで広がる世界。

2025.03.17

「ピックルボール」は、テニスや卓球、バドミントンの要素を取り入れたアメリカ発祥のスポーツ。初心者でもすぐにラリーが楽しめる気軽さが魅力で、ここ数年、急速に人気が高まっている。今回の主役はテニスとファッションを融合させ、「おしゃれをしながらテニスを楽しもう」をテーマにインスタグラマーとして活動する髙橋菜々さん。大人になってから出会ったピックルボールの魅力を聞いてみた。

自分と向き合うテニスの時間

この日待ち合わせをしたのは東京都の目黒テニススクール。「先週もここに来たんです」と話す髙橋さん。
コロナ禍をきっかけに自分の人生を見つめ直し、現在は「テニスタグラマー」として活動しながらスポーツメーカーのモデルやPRを行う彼女が、テニスに出会ったのは幼稚園生のころ。

家族の影響でテニスを始め、小学校ではスクールに通いながら週に一度のペースで、中学・高校では部活動として、ずっとテニスが身近にあったという。

「小さいころから兄と一緒にやっていたので、スクールで同年代の他の子よりは強かった記憶がありますが、ジュニアとして大会を目指したりはせずに『体を動かして楽しむ習い事』みたいな感じで続けていました。昔から勝ち負けにはあまり興味がなくて。このチームで団体戦ができて楽しかったなという感覚はあったのですが、引退の悔しさとかもあまりなかった気がします。」

大学では新しく興味を持ったことにチャレンジしようと思った髙橋さんは、一度テニスから離れた。サークル活動には参加せず、ひとりで過ごす時間を大切にするようになったという。


「こういう雰囲気でよく勘違いされるんですけど、ひとりでいるのも好きなんです。みんなでワイワイする時間があったら、それと同じくらい自分の時間も大切にしたい。大学時代はサークルにも入らずに、大学時代は本当にインドアで、ひたすら韓国語の勉強をしていましたね。」


そんななか、2020年に新型コロナウイルスのパンデミックにより、生活スタイルが大きく変化。外出制限がかかるなかで、ひとりで気軽に楽しめる遊びとして再びスポーツに目を向けるようになった。

「家にいる時間が増えたことが苦痛になってしまって。外に出たい、自分ひとりの時間が欲しいというのがあって、その時にオートテニスに通うようになりました。ハマってからは回数が増えて、週に3.4回は通っていました。もしかしたら学生のころのテニスがどこか不完全燃焼だったから、いまこんなにのめり込んでいるのかもしれないですね。」

オートテニスとは、機械から打ち出されたボールを壁に向かって打つテニスで、野球でいうところのバッティングセンターのようなもの。自由に動きながら、対戦相手がいなくても楽しめる施設だ。

「オートテニスは完全に自分のための時間。あの空間に入った瞬間に自分だけの時間になって、淡々と一定のリズムでボールを打ち返していると、悩みが発散されて整っていく感覚がありました。誰にも気を使わず、ただひたすらに集中してボールを打ち返しているとスッキリするんです」


自分のテニス記録としてSNSでの発信をする中でテニス好きの友人は増えたが、現在も誰かとテニスをするよりも、オートテニスを楽しむ時間の方が圧倒的に多いと語る髙橋さんだが、2024年のはじめ、普通のテニスともオートテニスとも違う「ピックルボール」という新たなスポーツに出会った。

ピックルボールはコミュニケーションのスポーツ

ピックルボールとは、バドミントンコートに近いサイズのコートで、プラスチック製のボールを打ち合うテニスのようなスポーツ。
パドル(テニスでいうところのラケット)は、テニスラケットよりも卓球のラケットに近く、髙橋さんは「大きな卓球台の上に、人が乗ってプレーするイメージです」と語る。

「知り合いがピックルボールのプロ選手になったのをきっかけに初めて競技の存在を知って。その人たちからピックルボールに誘われたのがきっかけで、2024年から2カ月に1回くらいのペースでピックルで遊んでいました。」

ルールがシンプルで、ラリーが続きやすいピックルボールは、初心者でも気軽に試合を楽しめるスポーツとして注目を集めている。

髙橋さんの周囲でも、次第にピックルボールを始める人が増え、誘われる機会が増えたことで、プレーの頻度が上がってきたという。

テニスに加えてピックルボールがライフスタイルの一部になった理由を聞いてみた。

「私のなかでテニスは、ひとりテニスって名付けてしまうくらい自分の時間を楽しむためにやっているんですけれど、ピックルボールは人とのコミュニケーションとしてやっているスポーツで、目的が違うのが理由かな、と思っています。ピックルボールって人と仲良くなりやすいんです。」

普段からテニスを一緒に楽しんでいる杏里さんも合流し、いよいよピックルボールコートへ。
普段着に近い格好でカジュアルに楽しめるピックルボールは、社会人の運動の場や社交の場として、都内にも専用コートが増えてきている。(※)

「ピックルボールはテニスよりもコートが小さいので、仲間や相手との距離が近いんです。大声を出さなくても声が聞こえるので、試合しながら普通に話が楽しめます。この前は、隣でピックルボールをしていた人たちと自然に一緒にプレーする流れになって。その人たちと話しているなかで、お互い同じアイドルが好きなことがわかって、試合中も休憩中もずっとライブの話をしていました。」

初対面でも仲良くなりやすいというピックルボール。日本以上にピックルボールが流行しているアメリカやオーストラリアには、公園にピックルボールのコートがたくさんあり、大勢がピックルボールを楽しんでいる。そこでは、自分のラケットをフェンスに引っ掛けて並べて、順番待ちの形式でゲームに参加する。

「自分の番が回って来たら、初対面でもそれぞれラケットを取って同じコートでゲームをするんだそうです。だからソロでも気軽にプレーできるし、知らない人同士のコミュニケーションも自然に生まれるみたいで。色んな年齢層の人が楽しめるのがいいですよね。」

勝ち負け関わらず、ただその時間を楽しむ

この日は、杏里さんとファッションや休暇の話をしながら、緩くラリーをした後、ダブルスでの試合を楽しんだ。
意外にもピックルボールのラリーは速く、相手との距離も近いため、ダイナミックな動きが求められる。

「コートが小さいので、すぐにボールに反応しなきゃいけない。だからこそ、みんな夢中になれるんです。そして、こうやって動きながら話していると、なぜか話が弾んでくる。私自身スポーツをしていて体を動かすと、テンションが上がって気持ちも明るくなる感覚があるから、そういうのも関係あるのかもしれないですね。」

普段は本を読んだり音楽を聴いたりと、家で過ごすことも好きという髙橋さん。スポーツから一度離れたものの、オートテニスで体を動かすことがリフレッシュになり、身も心も整うことでポジティブに過ごせるようになったという。そこにピックルボールというコミュニケーションの手段が加わった。

「ピックルボールを始めて、びっくりするくらい社交的になったと思います。特に2024年はピックルボールを通して色々な人と出会うようになって。それを重ねるうちに、ピックルボールがなくても初対面の人と喋るのも苦手じゃなくなってきました。」

仕事で出会った杏里さんが「ひとりでテニスをしている子がいる」と仲間内のテニス会に誘ってくれたことがきっかけで広がった髙橋さんの世界。無心で自分と向き合う「ひとりテニス」と、みんなで楽しく交流する「ピックルボール」。同じスポーツでも、その目的や関わり方は全く異なる。

「ずっとひとりでプレーして、ただの記録として自分のテニスをSNSにあげていました。それが、いつしか発信に変わったことで、スポーツを通してたくさんのご縁をいただいて仕事になったという感謝の気持ちがすごく強くて。まだ方法は模索中ですが、これからその恩返しをしたい気持ちがあります。」

きっかけは友達でも、運動不足でも、ファッションでもいい。
スポーツをすることで、自分自身がリフレッシュできたり、人と関わることでポジティブになれるスポーツに、いま一番魅力を感じているという。

「競技としてのスポーツからは離れていってるかも」
と話す髙橋さんだが、そこには体を動かすことの根源にある、等身大の楽しさがあるようだ。

「同級生が『運動不足だからテニスしよう』と誘ってきた時には、まずはピックルボールがいいんじゃない?と提案しちゃいます。最初からテニスコートのサイズは辛いし、経験者同士じゃないと試合にならないこともあるのですが、ピックルボールはその場にいる誰もが楽しめるのがいいんです。勝ち負け関わらず、ただその時間を楽しみたい気持ちが大きいと思います。」

※2025年3月現在、目黒テニススクールのピックルボール専用コートは会員様のみご利用いただけます。


■プロフィール

【髙橋菜々】
1996年1月28日生まれ、神奈川県出身。コロナ禍に入り1人で出来る運動として「ひとりテニス」テニスの壁打ちを始める。現在「テニスタグラマー」として活動中。

【杏里】
東京都出身 10代からプレス業を始めて3年前に独立。 現在は、日本や韓国などで若者に絶大な人気を集めるブランドのPR業務を務めるフリーランスプレス。

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Text by Fuumi Mori
Photograph by Sean Hatanaka

Storyとは「ライフタイムスポーツを楽しむ人たちの物語」

私には私の、あなたにはあなたの。スポーツの楽しみ方は人それぞれ。
⾃然の中で⾝体を動かすライフタイムスポーツを楽しみながら、人生を彩り豊かに過ごしている方は活力があり、魅力にあふれています。 その方たちは決してプロばかりではありません。
このコンテンツ「Story」では様々な楽しみ方で、自然とスポーツとともに日々を過ごしている人たちを取材し、ライフタイムスポーツの魅力とは何かをコンテンツを通して皆さんと一緒に感じていきたいと思っています。