Story

#012 CAMPたかにぃさん
「レイヤーが増えるほどにおもしろい世界」

旅を続けるULキャンパー・CAMPたかにぃの自然の遊び方

小さなバックパックに最小限の道具を詰めて旅をする「ULキャンプ」の先駆者CAMPたかにぃさん。2023年には身軽さを求めて家まで手放し、パートナーのユリさんと国内外の旅を続けている。そんな彼がたどり着いた自然の遊び方を教えてもらった。

ULキャンプのきっかけ

この日CAMPたかにぃさんの持ってきたULキャンプ装備はたったの6kgほど。ULとはUltra Light(ウルトラライト)の略で、道具の重さと数を絞って軽量化するキャンプスタイルのことだ。たかにぃさんが現在のキャンプスタイルに辿り着くまでには、いまから9年ほど遡る。

「20代のころに男友達と『キャンプちょっとやってみようぜ』という本当に初心者状態のスタートでした。知識もなかったのでグランピングのような手ぶらキャンプ。でもその時の場の雰囲気がすごく楽しくて、帰ってすぐに道具を買い始めました。」

最初に買ったテントは4人で寝られる11kgほどの大型テント。休みのたびにキャンプへ行くようになるが、毎週のようにレンタカーを借りて出掛けるのが苦痛になってきたという。

「もっとキャンプに行きたいのにどんどんお金がなくなっちゃうんですよね。そこで思いついたのがロードバイクで行くこと。そのためにアイテムはどんどん軽量化されました。でも軽量な道具に買い換えるのにもお金が必要なので、重たい椅子やテーブルを省いたり。少し無謀かな?と思う時もあったけど、とにかくキャンプしたい一心でULというよりはミニマリスト的になっていました。」

必要に迫られて道具を絞ったかたちだったが、Six Moon Designs(シックスムーンデザインズ)のわずか720gの軽量テントとの出会いが、CAMPたかにぃさんの心を動かした。アメリカ西海岸の約3000kmのロングトレイル(歩く旅)を経験したブランドオーナーが、軽量性と使い勝手にこだわって手がけたものだ。

「当初は見た目と軽さだけで選んだけど、それまで使っていた日本のテントと違いすぎて。『なぜこのかたちになったの?こんな天才的な形状を考える人はどこの人なの?』と、とにかく背景が気になったんです。ULが生まれたストーリーも含めてこのスタイルにどんどんのめり込みました。」

身軽になって得られる体験

最小限の道具でキャンプをするようになって最初に実感したのは、感情の動き方の違いだという。

「同じ場所に行く旅でも、車と自転車で体験のボリュームがまったく違うんだよね。車でワープするのではなく、道中の辛苦も、風のにおいとか、すべて自転車でダイレクトに受けることで、目的地にたどり着いた時のインパクトが変わるんです。」

苦労して登った坂やその頂上から見下ろした絶景。過程を五感で感じる自転車の旅。単純化してしまえばゴールは同じかもしれないが、目的地に行くまでの気持ちを高めることで、得られた印象はより際立って発散される。

「そのほうがなんか楽しいと思ってしまうんです。荷物が重たいと『バスでも使うか』と思っちゃうから、軽くしておけば『歩くか』となる。フットワークを軽くする重要さは肌身で感じています。以前のキャンプだけだと物足りなくなっても、身軽になって旅がすごく楽しくなりました。」

現在は定住も手放し、愛車の軽バンで旅をしながら、トレイルやスキンダイビングなど日本の自然を遊び尽くしている。

「僕自身を定義付けている“ULキャンプ”っていうと、アメリカのULハイキングに倣って『ベースウェイト(飲食物や燃料などの消耗品を除いた道具の重量)が4.5kg以下ではないとだめ』という人もいるけど、身軽な旅を楽しむところに惹かれた僕からすると、元のULのストーリー性は放置されちゃっている現状は少しさびしい。みんな道具や重量できめたがるよね。わかりやすいから。」

自然の捉え方を増やしてくれる釣り

CAMPたかにぃさんの釣りとの出会いはキャンプ友達から。アウトドアの遊び軸を増やそうと思ったのがきっかけだが、その時は自分の延長線上に釣りがある感じがなくてハマらなかったという。しかし2年前に『その場にあったから』という単純な理由で、友達が山菜と小エビを天ぷらにしてくれた。

「そしたらめちゃくちゃ美味しかった。上手く表現できないけど、なんだこれ、すごくいい体験してると思った。そこから釣りも復活させて自分で釣って捌くってことを始めたんだよね。」

最初は釣りに対しても大掛かりなイメージだったが、ライトゲームやテンカラなど小さな竿で釣りをするスタイルを調べるうちに「これならいまのスタイルに取り込めそう」と、どんどんおもしろくなっていったそう。組み合わせることで旅のレイヤーが増え、楽しみ方の幅が広がっていった。

「かっこいいからという理由でテントを買ったけど、その背景を知ってワクワクしたULキャンプと同じ。釣りはまだ勉強中だけど、魚も生態系を知ったら、いまこの場所にこの魚がいる理由、つまりストーリーがあるんです。それがおもしろい。」

旅をするなかでも、そこに山ができた理由や、人が歩くようになった歴史がある。ただの「モノ」として捉えられていなかった“点”が、いろいろなアクティビティを通して“線”としてつながる。それが増えて“面”になると、自分のなかのレイヤーとしてインストールされ、新しい発見につながっているようだ。

「魚を釣って食べることもその端にあって、本や図鑑では得られない実感が蓄積されていく。あんまり美味しくないから、骨が多くて食べにくいから、寿司屋さんでは食べられていないんだな、みたいな。なんてことのない体験が、他の体験と合わさってすごい発見につながるかもってワクワクするよね。」

「なんなら狩猟もやりたいなって思っているんだけど、狩猟のなかでも釣りはどこでもできて組み合わせやすくて簡単でいいよね。だからずっと、歳を取ってからも続けたいと思ってる。旅先で少し角度を変えて海を見られるから、レイヤーを深めるチャンスでもある。」

もっと自由に、遊びやすく

「釣りってなんか専門性が高くて、『スタイルや道具はこうあるべきものだ』って思っている人、多いと思うんだよね。」
とCAMPたかにぃさんは語る。

自身が自転車のULキャンプを始めた時にも、バックパックは登山で歩くためのものという前提が先にあり、道具が遊び方を定義させていたそうだ。

「バックパックは歩くために作ったから歩けっていうのはその人の価値観でしかない。でも遊び方は自由だし、固定観念がなくなった方がバックパックはもっと多くの人に普及して、ULキャンプみたいに新しいスタイルも生まれやすいんだよね。」

「柔らかい土壌に植物が芽吹きやすいように、もっともっと概念や考え方がフレキシブルになれば、これまで釣り人として中途半端だと見なされていたかもしれないスタイルも、『それも一つのスタイルだよね』と認められやすくなる。そんな風にして、多くの人が自然の楽しさに気づくきっかけが、もっと増えていけばいいなと思っている。」

日本は島国で海が身近にあるから、そこに山があって川が流れているから、という理由で魚を釣ってみよう、泳いでみようと思うのはすごく自然なこと。そんな気持ちの動きに合わせて自由に遊ぶことをCAMPたかにぃさんは実践している。

生活道具のすべてが積まれた自身の車を見ながら「ここは情報が多すぎる」というCAMPたかにぃさんが印象に残る。むだを省くことで生まれる物理的なスペースに心の余白が生まれ、体験や感動が沁みやすくなる。次に出掛けるための原動力も生まれやすくなる。そこに新しい発見や遊び方の出会いがあるのかもしれない。


■プロフィール|CAMPたかにぃ

ULキャンプの先駆者で、国内外で自転車、登山、トレイルを楽しむ。現在は家を手放し愛車で自由に旅をするライフスタイルに。2023年朝日新聞出版より「キャンプ道具を軽量化してULな旅を楽しむ ミニマライズキャンプ入門」を上梓。

----
Text by Fuumi Mori
Photograph by Sean Hatanaka

Storyとは「ライフタイムスポーツを楽しむ人たちの物語」

私には私の、あなたにはあなたの。スポーツの楽しみ方は人それぞれ。
⾃然の中で⾝体を動かすライフタイムスポーツを楽しみながら、人生を彩り豊かに過ごしている方は活力があり、魅力にあふれています。 その方たちは決してプロばかりではありません。
このコンテンツ「Story」では様々な楽しみ方で、自然とスポーツとともに日々を過ごしている人たちを取材し、ライフタイムスポーツの魅力とは何かをコンテンツを通して皆さんと一緒に感じていきたいと思っています。