Story ライフタイムスポーツを楽しむ人たちの物語。
#015 青木唯さん
「新天地アメリカで追う夢の到達点」(前編)

わずか10年足らずのバスフィッシング歴で数々のタイトルを獲得し、日本のバスフィッシング界で着実に実績を築いてきた青木唯選手。
日本のフィールドで磨き上げた実力を武器に、新たな挑戦の舞台をアメリカとした。世界最高峰のトーナメントに挑む青木唯選手の、その原点と未来への想いを聞いた。
自然のなかで釣りと出会った少年時代
山形の豊かな自然に囲まれ、家族とのレジャーの一環として始まった釣り
特別なものではなかった遊びが、いつしか心に根を張ることとなる


――釣りを始めたきっかけを教えてください。
父がアウトドア好きで、自然のなかで遊ぶのが我が家の基本でした。山や川、海で遊ぶ一環として釣りもあったので、正直どこではじめて釣ったかも覚えていないんです。
――自分から釣りをやりたいって思い始めたのは?
当時は特別釣りに興味があったわけではなく、いろいろなレジャーのなかのひとつでしたね。
――じゃあ、たとえば10歳の自分に会った時に、「将来釣りのプロになるぞ」っていったら、びっくりするような?
おそらくそうです。きっと「ないない」って言うと思います。
大切なものを模索していた高校時代
家族と一緒に、ただ遊びの延長で釣り竿を握っていた少年時代。
しかし、無邪気な手のなかには、やがて世界をつかむ覚悟が宿ることになる。

――それなのにバス釣りのプロを目指そうって思ったきっかけは?
すごく簡単にいうと、小さいころから家が経済的に恵まれていなかったことにコンプレックスを感じていて、とにかくお金持ちになってみたかった。だから、税理士か会計士になろうと思って、国立大を目指して勉強していたんです。でも、高2の冬に、ふと立ち止まって「お金さえあればいいのか?たぶんそうじゃないな」って自分の人生をもう一度考え直したら迷いが出てきて。「じゃあ、いままでしてきたことのなかで一番楽しかったことはなんだろう」って考え始めたんです。
そんな時、たまたまYouTubeで青木大介さんというバスプロの方がバサーオールスタークラシックで優勝した動画を目にしました。優勝が決まった瞬間、青木大介さんが涙を流す姿を見て、「魚を釣って泣くほど嬉しいことがあるんだ、それくらい大きなものなんだ」と衝撃を受けたんです。その感情のこもった行動の一つひとつが僕の心に響いて、「僕もこうなりたい」と思ったんです。
そこが、僕にとってのターニングポイントでした。
プロになるための覚悟
17歳の冬、青木大介 選手の優勝シーンとの運命的な出会いを経て、
過酷な勝負の世界で「本当の敵」に出会うこととなる

――そこでバスプロになろうと決意してからは?
高2で通っていた高校を辞めて、日本初の釣り専門学校・ヒューマンアカデミーフィッシングカレッジ富士河口湖校に行きたいと親に相談しましたが、「高卒資格だけは取るように」と条件を出されました。なので通信制に転校し、2か月で全単位を取得。その後は午前中はバイト、午後は釣りに打ち込む生活でした。
――河口湖に行ってみて、新生活がスタートした時はどうでした?
周囲との差を痛感しましたね。「このなかで一番にならないと」という気持ちが強かった。あの時が一番スイッチが入っていたかもしれません。
しかし、学生時代に入ったスイッチは、日本で数々のタイトルを手にする原動力となっただけでは終わらなかった。さらなる高みを求めて、青木唯の視線は海の向こう、世界最高峰の舞台・アメリカへと向かっていく――(後編へつづく)
■プロフィール|青木唯
1999年生まれ、山形県出身のトーナメンター。2021年から日本のバストーナメント全国トレイル(JB TOP50、JB マスターズ)に参戦開始。2022年、2023年と日本のトーナメントシーンを席捲。2022年河口湖における大会では、全9戦中8戦優勝(内1試合は準優勝)と無敵と称される。2023年はJB TOP50小野湖戦にて優勝を飾り、オールスタークラシックの出場も果たした。
メーカースポンサーはDAIWA/SLP WORKS/DSTYLE/SDG MARINE。
藤田京弥が唯一ライバルと呼ぶ程の実力の持ち主。
2021年からDAIWAと(リールとアパレル)契約。
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Text by rui
Photograph by Sean Hatanaka
Storyとは「ライフタイムスポーツを楽しむ人たちの物語」
私には私の、あなたにはあなたの。スポーツの楽しみ方は人それぞれ。
⾃然の中で⾝体を動かすライフタイムスポーツを楽しみながら、人生を彩り豊かに過ごしている方は活力があり、魅力にあふれています。
その方たちは決してプロばかりではありません。
このコンテンツ「Story」では様々な楽しみ方で、自然とスポーツとともに日々を過ごしている人たちを取材し、ライフタイムスポーツの魅力とは何かをコンテンツを通して皆さんと一緒に感じていきたいと思っています。