Story

#017 ポール・イングラムさん
「オカワリ、プリーズ!自転車で巡る日本、食の旅」Part 1

2025.08.20

イギリス人の映像作家ポール・イングラムとアメリカ人シェフのジョッシュ・ティペットは、
FOCUSのバイクに乗り、鹿児島から東京まで日本の食を巡る自転車旅を敢行した。
この旅の道中で書かれたポールの手記と、旅の風景を写真と共に紹介する。

東京で過ごした1週間から、僕らの冒険は始まった。親友のイサオには旅の準備を大いに助けてもらい、この間にFOCUSのバイクをセットアップした。一通り準備が整うと、僕らは飛行機で鹿児島へと飛んだ。バイクが無事に届くかとひやひやしたが、そんなことは杞憂だった。空港でバイクを組み上げると、まずは鹿児島市内へとペダルを漕ぎ出す。日本を横断する旅の始まりだ。

鹿児島市内で2泊して、街の活気ある文化に触れることができた。有名な黒豚のほか、ここのラーメンは今まで味わったものの中でも最高クラスの美味しさ。また、活火山である桜島を訪れ、この地のお寿司屋さんで忘れられない時間を過ごした。親切な地元の人たちは僕らの旅に興味津々で、名前とどこから来たのかを店の壁に書いてくれと頼んできたのだった。その間、旅のパートナーであるジョッシュはすべての食事を丁寧に記録し、僕は映像作品のためのいい素材が撮れたことににんまりしていた。

鹿児島から北へ向かう。ここからが僕らの自転車旅の本当の始まりだ。
その中で特に記憶に残っているのは、長い雨の一日を走り切ってたどり着いた小さな温泉宿の一夜。翌日には最長距離のライドが待ち受けていた。それは霧に包まれたうねる山道を行くもので、4kmにおよぶ長いトンネルを走り、最後は人吉市でのキャンプ泊となった。美味しいお蕎麦を食べて英気を養い、星空の下で眠りについた。

しっかり休息を取り、それまでの過酷なライドからだいぶ回復した僕らは、人里離れた静かなルートを選びながら山道を進み、人吉市の歴史的スポットを散策した。旅は宇城市を経て、過酷な一日は続く。走行距離およそ54kmに、獲得標高が1,500mという登坂の厳しいルートだった。これにはさすがに体力を使い果たしたものの、なんとか心休まる南阿蘇のキャンプ場にたどり着いたのだった。

その翌日はまたしても激しい雨と、厳しいライドになったが、ご褒美はフィニッシュの黒川温泉。雨に濡れ、泥だらけで到着した僕らだったけれど、他の観光客と共に周辺の散策を楽しみ、素晴らしいホテルの温泉に、ほっと一息つくことができた。

束の間の温泉滞在を楽しんだあとは天候が回復し、陽の光に包まれながら下り坂メインのコースを走った。約45kmを走って到着したのは日田市では、洗濯やカメラの充電をしたり、町を探索したり、友人に連絡したり、いわゆる休息日とした。続いて65kmほどを走って、福岡へ。
到着後、伝説の屋台街では、有名なストリートフードを堪能したのだった。

九州の旅もいよいよ終わりに近づいてきた。進路を東へとり、北九州市の熱気溢れた旦過市場を探索し、小倉城を見学した。
その後は、いよいよ本州へ。関門トンネルは自転車を押して渡り、ふたつの小さな町を走り抜け、広島にたどり着いた。この日は雨で寒かったけれど、広島風お好み焼きをはじめとする素晴らしい食事がそれを帳消しにしてくれた。少し自転車を置いて、平和記念公園と原爆資料館を訪問した。この時間は、色々と考えさせる大切な経験になった。

瀬戸内の島々を目指し、さらに東へ。絶景の中、ようやく晴れた日が続き、日焼けを気にするようになっていたほど。島で行ったキャンプはこの度のハイライトの一つだ。僕らだけしかいない、静かなビーチでの夕食を楽しんだ。

四国に上陸し、山火事の情報に気を配りながら香川県は琴平町へ向かった。ここでは有名なうどんを堪能し、金刀比羅宮の壮観さに息を呑んだ。そこからフェリーで岡山へ渡り、再び本州へ戻った。この素晴らしい旅は、まだまだ続く――。

Part2に続く……


■プロフィール|ポール・イングラム

イギリス出身、フィンランド・ヘルシンキ在住の映像作家。トレイルでのハイキングを愛するハイカーであり、数多くのハイク映像作品を発表している。2025年の2月から2ヶ月間にわたり鹿児島から東京まで自転車で日本の食文化に触れる旅を敢行。現在はその編集作業に勤しむ。




----
Text by Yufta Omata
photo: Paul Ingram

Storyとは「ライフタイムスポーツを楽しむ人たちの物語」

私には私の、あなたにはあなたの。スポーツの楽しみ方は人それぞれ。
⾃然の中で⾝体を動かすライフタイムスポーツを楽しみながら、人生を彩り豊かに過ごしている方は活力があり、魅力にあふれています。 その方たちは決してプロばかりではありません。
このコンテンツ「Story」では様々な楽しみ方で、自然とスポーツとともに日々を過ごしている人たちを取材し、ライフタイムスポーツの魅力とは何かをコンテンツを通して皆さんと一緒に感じていきたいと思っています。