Story

#017 ポール・イングラムさん×オカワリ、プリーズ!
「自転車で巡る日本、食の旅:鹿児島から東京まで」Part 2

2025.09.03

イギリス人の映像作家ポール・イングラムとアメリカ人シェフのジョッシュ・ティペットは、
FOCUSのバイクに乗り、鹿児島から東京まで日本の食を巡る自転車旅を敢行した。
この旅の道中で書かれたポールの手記と、旅の風景を写真と共に紹介する。

本州に戻り、岡山市で僕らを待っていたのは、この旅で最も記憶に残る“食”の体験だった。訪れた「お好み焼き 幸」では店主と常連さんがまるで友人のように迎えてくれた。僕らの鹿児島から東京までの旅や、制作中の映像作品について話すと、彼らは嬉しそうに耳を傾けてくれた。店主はジョシュに包丁のコレクションや釣り旅行の写真を見せてくれ、お好み焼きのあとには自らが釣った魚の刺身まで振る舞ってくれたのだった。——忘れることのできない心温まるひとときになった。

岡山から神戸を目指す道中では、可能な限り交通量の少ない道を走るようにしたけれど、最終的に混雑する都心部ではラッシュアワーの混乱に巻き込まれた。圧倒されるような体験だったが、それはそれで味わう価値は十分あったと思う。この日本の食の都のひとつ神戸で数日間滞在し、その間にはもちろん神戸牛を堪能したのだった。

その後、湾沿いに30kmほどの短いライドをして、数日間滞在する予定の大阪へ入った。大阪は評判どおり活気ある都市で、美食とエネルギーが満ち溢れていた。大阪城を散策し、ネオンきらめく道頓堀を歩き回り、映像作品のための素晴らしいインタビューをいくつか収録することができた。ストリートフードはとても楽しく、都市の熱気にすっかり当てられてしまった。

数日後、大都市の喧騒から少し離れようと、自転車で北東へ65km、京都を目指した。大阪と比べると京都は町の広がりや落ち着きが感じられ、空気感の違いが印象的だった。一方で、観光客の多さにはちょっと圧倒された。自転車から重い荷物を下ろし、身軽になって名刹から名もなき街角まで自由に探検を楽しんだ。寺院や裏路地、静かな瞬間を自転車で巡る時間は、まさに至福の体験だった。

京都での数日間は充実していた。いくつかのインタビューを収録したのち、僕らは滋賀へと進み、ついに琵琶湖に到着。ここでは新しい友人に出会い、ご飯を楽しんだりこれまでの出来事を話したりした。そのあと、1日半かけて琵琶湖をぐるりと周遊。桜が咲き乱れる湖は絶景で、サイクリストにとってまさに夢のような場所だった。

次に訪れたのは岐阜市。「山川醸造」で伝統的なたまり醤油の製造工程を間近に見て、心が震えるのを感じた。そこから遠くない関市は刀鍛冶の伝統で知られる街。ここで包丁を購入することは、旅の最初からやることリストに入っていたことでもあった。

南東へ進路を変え、目指すは富士山。日照時間が長くなり、日差しが強まる中、水分補給と日焼け対策が不可欠に。しかし浜松市を出て、富士吉田市へと進む頃には、天気が一変。雨が降り続き、寒さと視界不良でタフな一日となった。ずぶ濡れで疲労困憊になりながらも、目的地に到着したのだった。

幸いなことに、翌朝は青空が広がった。富士宮市へ向かう途中でようやく富士山が姿を現し、壮観な景色が広がった。町に到着したのは遅かったものの、ホテルの銭湯でリフレッシュし、焼きそばを食べながら夕暮れに染まる富士山を眺めた。

翌日は富士山の北側を回り、富士吉田市を目指す。山頂こそ雲に隠れていたものの、長い登り坂の最中の風景は心に染み入った。数百年の歴史を持つという銭湯で旅の疲れを癒やし、美味しい料理と日本酒を味わえる居心地の良い居酒屋で一日を締めくくったのだった。

そしていよいよ東京へ。旅も終わりが近づいてきた。幸運にも、雲一つない富士山が私たちを見送ってくれた。東へと進む道は暑く、登りが多かったけれど、桜と山道に彩られた美しい風景でもあった。曲がりくねった田舎道を走る間、車をほとんど見かけなかった。

そして最終日! 鹿児島から東京までの約1,700kmを超える旅がついに完結。朝の太陽が旅の終わりを喜びの光で照らし、私たちは万感の思いで東京に到着した。迎えてくれた裕人たちの笑顔、溢れる笑い声、そしてやりきったという誇らしさを抱いてゴールした。私たちは成し遂げたのだ。疲労困憊ながらも興奮は冷めやらず、僕らの頭にはすでに次の冒険を夢見ていたのだった。次はきっと、日本の北半分になるだろうか?

続く……(かもしれない)?


■著者|ポール・イングラム

イギリス出身、フィンランド・ヘルシンキ在住の映像作家。トレイルでのハイキングを愛するハイカーであり、数多くのハイク映像作品を発表している。2025年の2月から2ヶ月間にわたり旅の仲間ジョッシュと共に、FOCUSバイクで鹿児島から東京まで自転車で日本の食文化に触れる旅を敢行。現在はその編集作業に勤しむ。

ポール・イングラム(左)



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Text by Yufta Omata
photo: Paul Ingram

Storyとは「ライフタイムスポーツを楽しむ人たちの物語」

私には私の、あなたにはあなたの。スポーツの楽しみ方は人それぞれ。
⾃然の中で⾝体を動かすライフタイムスポーツを楽しみながら、人生を彩り豊かに過ごしている方は活力があり、魅力にあふれています。 その方たちは決してプロばかりではありません。
このコンテンツ「Story」では様々な楽しみ方で、自然とスポーツとともに日々を過ごしている人たちを取材し、ライフタイムスポーツの魅力とは何かをコンテンツを通して皆さんと一緒に感じていきたいと思っています。