Story

#021 手島章斗さん
地元、尾道。釣りを通して見つめる「原点」と「夢」

2025.11.21

晴天に恵まれた10月の広島県・尾道。
街を案内してくれるのは、俳優・アーティストとして全国で活動しながら、地元・尾道の観光大使としても魅力を発信している手島章斗さん。
この日は、街や海をめぐりながら、故郷と自身の原点について語ってくれた。

エモーショナルな街、尾道

「尾道は僕という人間をつくってくれた場所です。海も山も近くて自然が豊か。それに人もすごく優しい。歴史ある街並みも残っていて、どこを歩いてもエモーショナルなんですよね」

瀬戸内海に面した尾道は、坂道と路地が織りなす独特の景観が印象的な街だ。
潮の香りと石畳のぬくもり、軒先でくつろぐ猫。まるで映画のワンシーンのような風景が広がっている。

「最近では商店街におしゃれなお店も増えてきて、尾道もどんどん進化しているなと感じます」
現在は東京を拠点に活動する手島さんだが、上京してから改めて地元の魅力を実感するようになったという。

「もともと釣りやキャンプなど、自然の中で遊ぶのが好きで(笑)。だからか東京に出てからの方が、尾道の良さに気付くことが多くなりました」
豊かな自然と人の温かさ。 それが、今の手島さんの感性や表現の“芯”を育ててきた。

瀬戸内海を眺めながら

市街地を歩いたあと、車で少し走って街の外れにある砂浜へ。
目の前に広がる瀬戸内海は、穏やかな波が陽の光を反射し、遠くには橋が見える。のんびり釣りを楽しむには理想的な場所だ。

「普段は船で沖に出ることが多いのですが、こうして陸からのんびり竿を出すのもいいですね」
この季節の尾道では、キスやハゼなどの小魚、時間帯によってはハマチが釣れるという。

「以前、船でハマチや真鯛を釣ったこともあります。タイラバで釣れた時はめちゃくちゃ興奮しました(笑)。今日は釣れるかな〜」

仕掛けの準備を終えると、早速キャスト。リールを巻きながら海の様子をうかがう。
最初はスタッフと談笑していた手島さんも徐々に真剣な顔つきになり、竿先のわずかな動きにも神経を集中させる。

「……あ、今きました!」
ピンと竿がしなった瞬間、思わず身を乗り出す。10〜20m先に魚の影が見えるものの、惜しくも針にはかからなかった。

「あ〜ダメか〜(笑)。悔しいですね」
そう言いながらも、どこか楽しげな表情を浮かべる手島さん。

釣りを楽しむその姿には少年のような無邪気さがあった。

釣りが教えてくれること

「釣りを始めたきっかけは家族ですね。小学生の頃に子ども用の釣りセットを買ってもらって、よく出かけていました。だから僕にとって釣りは昔からの身近な遊びなんです」

「成長してから改めて感じたのは、釣りの本質は“待つこと”にあるということ。
どれだけ信じて竿を出し続けられるか。焦らずにその時間を楽しめるか。そういう部分が、人生にも少し似ている気がします」

釣りを通して身につけた“忍耐力”は、アーティストや俳優として活動する上でも生きているという。

「音楽や芝居の世界って、すぐに結果が出ないことが多い。でも投げた仕掛けを信じて待つ感覚は同じ。釣りをすることは、”自分を整える”という感覚に近い気がします」
また、手島さんにとって、釣りは家族や友人との絆を深める時間でもある。

「地元に帰ると、友達と釣りに行くことが多いです。集中して黙々と竿を握る時間もあれば、話が盛り上がって笑ってばかりの時間もある。そうやって、昔と変わらない自由な時間を過ごせるのも釣りの魅力だと思います」

尾道とともに歩む

観光大使として活動する今、尾道との関わりは年々深まっている。

「東京にいると時間の流れが早くて、自分を見失いそうになることもあります。でも尾道に帰ると、“自分はこういう人間だったな”って思い出せる。僕にとって尾道は、原点であり帰る場所です」
地元を題材にした楽曲を作ることも多いという。

「歌詞を書いていると、尾道の景色が自然と浮かんでくるんです。海沿いの風の匂いとか、実家の庭に咲いていた金木犀の香りとか。そうした尾道での原体験が、自分の作品づくりの中心にあります」
そして、これから叶えたい夢も明確だ。

「アーティストとしては、日本武道館でワンマンライブを開催すること。そして観光大使としては、いつか尾道でフェスを開きたい。地元のみんなと音楽でつながれるような場所を作れたら最高ですね」

釣りと原点回帰

自身の思い出を振り返りながら、最後のキャストに挑む手島さん。

「これで釣れたらかっこいいんですけどね〜(笑)」
そう言いながら祈るようにルアーを引く。

結果、、、残念ながらこの日は釣果に恵まれなかった。しかし竿を置いた手島さんの顔はどこか晴れやかに見えた。

「今日は釣れなかったけど、地元でゆっくり釣りを楽しめてよかったです!」
尾道を“自分の原点”と語る手島さんにとって、釣りは心を整え、自分と向き合うための大切な時間つくるものだった。


■プロフィール|手島章斗(てしま あきと)

広島県尾道市出身。尾道市観光大使。 2013年、ボーカルグループ「SOLIDEMO」としてメジャーデビューし、第56回日本レコード大賞新人賞を受賞。グループ卒業後はソロアーティストとして活動を開始。
繊細で伸びやかな歌声と確かな表現力で、ポップスからバラードまで幅広い楽曲を届けている。 舞台「1789 -バスティーユの恋人たち-」「新テニスの王子様」、ドラマ「Gift」などに出演するなど、俳優としての活動も広げている。 2025年にはデジタルシングル「ユートピア」「黎明」をリリースし、表現者としての歩みをさらに深めている。
地元・広島では、マツダスタジアムでの広島東洋カープ戦にて国歌独唱を務め、同球団の小園海斗選手が彼の楽曲「カイト」を登場曲に使用するなど、地元とのつながりも深い。 音楽、演技、そして人間性—すべてが融合したその存在感は、唯一無二の魅力を放っている。


Photo:Yoshiaki Takahashi
Text:Tsukasa Seki
Edited By:Shintaro tobimatsu

Storyとは「ライフタイムスポーツを楽しむ人たちの物語」

私には私の、あなたにはあなたの。スポーツの楽しみ方は人それぞれ。
⾃然の中で⾝体を動かすライフタイムスポーツを楽しみながら、人生を彩り豊かに過ごしている方は活力があり、魅力にあふれています。 その方たちは決してプロばかりではありません。
このコンテンツ「Story」では様々な楽しみ方で、自然とスポーツとともに日々を過ごしている人たちを取材し、ライフタイムスポーツの魅力とは何かをコンテンツを通して皆さんと一緒に感じていきたいと思っています。