Story ライフタイムスポーツを楽しむ人たちの物語。
#041 植野淳さん―釣りは、旅先の水辺に留まる理由になる

東扇島西公園の海辺に、キャンピングカーが停まっていた。
外から見ると大きな車だが、中に入るとテーブル、キッチン、ベッド、トイレがあり、小さな家のようでもある。足元では愛犬のロビンが動き回り、植野淳さんが慣れた調子で声をかける。
植野さんは1959年生まれのカメラマン。ニューヨーク州立大学FITで写真を学び、帰国後は広告写真を中心に、雑誌や企業案件、物撮り、人物撮影など幅広く手がけてきた。
自身のスタジオを構え、長く撮影の現場に立ってきたが、今年3月でスタジオ運営に一区切りをつけた。

いまは千葉を拠点に、河口湖や沖縄にも居場所を持ち、家族とキャンピングカーで各地を巡っている。もちろん旅には、愛犬のロビンも一緒だ。
その車には、いま3本の釣り竿が積まれている。
キャンピングカーだから叶う自由な旅
「この車ならポイッと乗っけて、パーッと行けるでしょ。仕事がいつ入るかわからないし、いつ遊びに行けるかわからない。だから、ぷらっと旅に行けるキャンピングカーがいいんです」

キャンピングカーなら、眠る場所も、休む場所も、荷物も、家ごと全部動かせる。宿のチェックイン時間に合わせる必要がない気軽さも、植野さんには合っている。
思い立ったら必要なものを積み、その日の行き先に向かう。細かな予定は立てないのが植野さんのスタイルだ。地元のスーパーで食材を選び、温泉に入り、RVパークなどで夜を過ごす。
「自分のスケジュールで自由に動ける旅は、ホテルとか旅館よりも最高の旅だと思いますね。いつでも犬と一緒にいられるし、もう全部、犬のために。家も車も何もかも変わっちゃいました(笑)」

遠方までは高速道路を使うこともあるが、現地ではなるべく一般道を走る。時にはうっかり細い山道に入り、「死にそうになる」ほど苦労したこともあるという。
それでも、ゆっくり町の景色を楽しみながら、どこに立ち寄るかはその場の直感で決めていく。
旅に慣れてきた今、求めているもの
植野さんにとって、旅の魅力は目的地そのものだけではない。
「毎日違うところで暮らして、違うものを見て、違うものを食べる。一番の魅力は多分そこかな」

景色も、食べ物も、空気も、人も違う。その違いに触れることが、植野さんを旅へ向かわせてきた。
ただ、日本各地を何度も巡れば、見慣れてくる景色もある。
「日本の絶景ってさ、滝だったりさ、川だったりさ。だいぶ飽きてきましたね。本音を言うと。そこで、釣りがいいかなって。自分の脳みそ使って仕掛けを工夫したり、道具を工夫したり、場所を工夫しないとうまく行かないから。釣りはいい刺激になるんじゃないかなと思うんですよね」

絶景を見ることより、その土地とどう関わるか。興味は少しずつ、そちらへ移ってきているようだった。
ただ景色を眺めるだけではなく、その場所の水や風を読み、見えない水中を想像する。そこには、旅先をもう一度違う角度から見る余地がある。
その「考えて、工夫する」面白さを話すとき、植野さんは、自身が熱心に取り組んでいるゴルフを引き合いに出した。

「たとえば僕が好きなゴルフはね、自分の体の発見をするんですよ。昨日できなかったことが、今日はできる。反対に、昨日できたことが今日はうまくいかない。肘の使い方や手首の角度を確かめ、理由を考えながら動きを調整していく」
千葉の住まいはゴルフ場のすぐ近く。時間ができたいま、クラブを握ることは日常の一部になっているという。ただ繰り返すのではなく、小さな違いを見つけ、その理由を考えてみる。昨日とは違う方法を試してみる。
「なんというか、自分の体の中を旅してる感じで」

ゴルフを通して自分の体を読み、釣りを通して見えない水中や自然を読む。対象は違っても、植野さんが遊びに感じる面白さには、どこか共通するものがあるようだ。
そんな植野さんが、新しい遊びを始めるとき、まず手にしたのも道具だった。
道具があれば、関わり方が変わる
植野さんが最初に釣り道具を買ったのは、キャンピングカーで旅を始めたころだった。
「これは絶対、海に行くだろうなと思って。釣り竿くらい買っておいた方がいいんじゃないかと思って」

カメラマンとして長く道具を扱ってきた植野さんは、釣り道具にも自然と興味が向いた。
「僕も道具を集めるのが好きなので。釣り道具って面白いじゃないですか。ゴルフと同じだよね。あとカメラもね、同じでしょ」
カメラを持てば、光や構図を見る。ゴルフクラブを握れば、自分の体の動きを確かめる。そして釣り竿を持てば、それまで眺めていただけの水面の下を想像するようになる。
道具を手にすることで、目の前にあるものとの関わり方が少し変わるという。

買った竿をしばらく車に積んだままにしていた植野さんが、旅先でふと取り出したのは、四国・土佐にある漁港だった。
訪れたのは元旦。道の駅の近くにある港は静かで、漁船も動いていなかった。そこで竿を出すと、サバが釣れた。
「いい大きさのサバが釣れて。それをさばいて食べました」

釣った魚はキャンピングカーの中で処理し、その場で食べた。キッチンも食卓も、すぐそばにある。
港に車を停め、竿を出し、釣れた魚を食べる。
わざわざ釣りのためだけに出かけたわけではない。けれど、旅の途中に海があり、車の中に竿があったことで、その土地で過ごす時間がひとつ増えた。

日本を旅していれば、海に出る機会は多い。港のある道の駅も、水辺を通る道もある。
これまでは景色として眺めていた場所でも、竿を持って立てば、水の色や流れ、風の向きに目が向く。
景色として通り過ぎていた水辺にも、少し立ち止まる理由ができた。
次の旅に、3本の竿を積んで
この日の東扇島では、魚の反応は少なかった。台風の影響もあったのか、周囲の釣り人たちにも大きな動きはない。
それでも植野さんは海辺に立ち、竿を出した。

そばにはロビンがいて、すぐ近くにキャンピングカーが停まっている。
「これからちょっとずつハマろうと思ってます」
植野さんの釣りはまだ数回目。行き先を決めず、気になった場所に立ち寄る。温泉があれば入り、知らない道があれば走ってみる。そして海辺に出たら、少しだけそこで釣りをしてみる。
旅のスタイルは何も変わらない。ただ、その途中に、水辺で立ち止まる時間が加わった。
キャンピングカーに積まれた3本の竿は、次に訪れる海辺で、その続きを待っている。

■プロフィール|植野淳(うえの じゅん)|カメラマン
1959年、東京都渋谷区生まれ。1985年にニューヨーク州立大学FITを卒業後、帰国し、写真家・鳥居正夫氏に師事。1987年よりカメラマンとして活動を開始する。広告写真を中心に、雑誌や企業案件、人物・商品撮影など幅広い分野を手がけ、長年にわたり自身のスタジオを拠点に活動。現在はキャンピングカーで愛犬とともに各地を巡りながら、旅やゴルフ、釣りなどを楽しんでいる。
Text by 森風美
Photograph by 畠中ショーン
Storyとは「ライフタイムスポーツを楽しむ人たちの物語」
私には私の、あなたにはあなたの。スポーツの楽しみ方は人それぞれ。
⾃然の中で⾝体を動かすライフタイムスポーツを楽しみながら、人生を彩り豊かに過ごしている方は活力があり、魅力にあふれています。
その方たちは決してプロばかりではありません。
このコンテンツ「Story」では様々な楽しみ方で、自然とスポーツとともに日々を過ごしている人たちを取材し、ライフタイムスポーツの魅力とは何かをコンテンツを通して皆さんと一緒に感じていきたいと思っています。









