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冒険家・風間深志が「水のワークショップ」に込めた想い

2022.10.01

「地球元気村」を主宰する冒険家・風間深志さんが、2022年、山梨大学と連携し、新たな自然体験プロジェクト「水のワークショップ」を始める。日本を代表する冒険家が雄大な自然を構成する要素から「水」をテーマに選び、子どもたちにどうしても伝えたかったこととは何だろうか?

山梨大学では、科学技術振興機構「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム・小さな水サービスの導入を軸とした互助ネットワークの形成による、社会的効用創出モデルの開発と展開(2021年度)」と同「次世代人材育成事業・やまなしジュニアドクター育成自然塾 ~南アルプス・ユネスコエコパークでの活動が育む未来人材~(2022年度)」をスタートさせた。二つの事業は水、自然、社会、人といったキーワードで接点を持ちながら進む。風間さんは山梨大学と連携し、これらの事業の一環として「水のワークショップ」を企画している。山梨県は風間さんの出身地であり、主宰する「地球元気村」のメインフィールドでもある。山梨県の豊かな自然を背景に「水」というテーマにこだわり、ワークショップを企画した意図はどこにあるのだろうか。

「今年から始める「水のワークショップ」は、子どもたちを対象にしたプログラムで、人間が生きるうえで一日だって欠くことのできない水の本質を見つめていこう、というものです。冒険家としてこれまでさまざまな自然と対峙してきましたが、僕が今、改めて目を向けているのは川です。ここのところ、大気汚染や海洋汚染といったことがものすごく大きな問題として押し迫っていますよね。なんだか、普通に呼吸していることが、息苦しく思えるほど・・・。「じゃあ、僕にやれることはなんだろう?」 と考えたのです。 でも、海洋汚染を解決するなんて「僕一人でできることじゃないよなぁ~」と。できることといえばゴミ拾いくらい。それなら、川辺を掃除して歩くのがいいんじゃないかなと。川から遠のいてしまった子どもや、川遊びや釣りを体験したことがない子どもはいっぱいいますから、川の楽しさを呼びかけていこうと考えたんです。その時、研究者の意見も聞いてみたいと思い、山梨大学 国際流域環境研究センター の西田継さんに話を聞きに行きました。西田さんは環境学の研究者です。その西田さんが「自然は神秘的だし素晴らしいけれどおそろしい。研究者も含めて一面だけにとらわれすぎていないか。知らないことを知るということを、いま改めて意識したい」と話してくれました。 それは、僕たち「地球元気村」が設立当初から考えてきたことでもあるんですよ。自然には解明できない神秘さや深みがあることを、最先端の研究をしている人も考えているんだなぁ、と嬉しく思いましたね。そんなご縁があり、山梨大学と連携し、西田さんと一緒に「水のワークショップ」を始めることにしたのです」

山梨大学が取り組む「ジュニアドクター育成自然塾」事業では、自然や科学技術への好奇心が強く、思考力や行動力などがある子どもを発掘・育成することを目指している。「水のワークショップ」に参加する子どもたちが川に行き、川に入り、川の楽しさを体験することで水への知的好奇心を高め、地球の環境問題について考えることにつながっていくとすれば、それはとても素晴らしいことだ。そもそも「地球元気村」のテーマは、「遊びの体験を通じて自然に触れ、理解し、本当の元気を取り戻すこと」である。子どもたちには何よりも自然体験が大切だと、風間さんは思っている。

「僕は山梨県の山育ちなので、日常空間に自然がたっぷりあり、遊ぶのはいつも野外でした。やがて、大人になって子育て真っ最中だった頃、東京都の練馬に住んでいまして、僕が子ども時代はごく当たり前に遊びは野外だったのに、東京のマンション住まいとなると、子どもをどう育てるか? ものすごく迷いました。 そこでやり始めたのがキャンプです。嫁さんと子どもを連れて川沿いに伸びる林道のどん詰まりに行ってテントを張り、暗くなるまで釣りをするんです。日常を離れ、あらゆるライフラインから逸脱したところで家族みんなが役割分担をこなし、みんながひとつになって一夜の安全を構築し、翌朝、素晴らしい朝を迎える。生活のための水を汲み、石を転がすという、とてもドラマチックでリアリティのある衣食住の体験でした。そんな素晴らしい感動を皆んなに広めたい! と思ったんです。それが「地球元気村」設立のきっかけでした」

これまで「地球元気村」は、 日本各地の自然を舞台に、アウトドア体験イベントを通じて地域づくりを行ってきた。昼間は思いっきり遊んで、夕方には自然のことを考える座学を行う「昼間の野外体験+夕方の座学」を主なプログラムにしている。

「今年、「地球元気村」は35年目を迎えます。参加してくれる人たちを見ていると、人間の本質は変わらないなと感じますね。自然に触れる喜び、価値観は時代が進んでも変わらないんですよ。キャンプ道具が進化して、野外でも快適に過ごせるようになりましたが、そこから見えるものは神秘に満ちた自然、優しくも厳しくもある自然と、今日も触れ合える喜びなんです。自然が人間に生きる喜びを感じさせてくれることは、普遍的なものだと思います。常にそういうものを掴みながら、自然と向き合い、みんなで遊び、喜怒哀楽を未来永劫、分かち合っていけたらなと思います。「水のワークショップ」は、「地球元気村」での活動の延長上にあるもの。季節ごとにいろいろな川でやれたらいいなぁ~、と思っています」

風間深志
1950年 山梨県生まれ。日本人初のバイクによる両極点到達など、数々の記録を残す日本を代表する冒険家。
1988年、冒険の傍ら「NPO法人地球元気村」を設立。人と自然が共生する社会の実現に向けて活動を続けている。

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