Features

子どもの人生が豊かなものになるために親はどんなサポートをするべきか(後編)

2022.12.20

前編では、脳科学者の瀧靖之先生に「自然体験が子どもの知的好奇心を育む」ことについてお聞きしました。脳科学の視点に立ったさまざまな指摘に、子どもに自然体験をさせることの大切さをご説明いただき、その後編となる今回は、子どもの自然体験をより良いものにするため、親は何をすべきかについて教えていただきました。瀧先生が最も強調したこと、それは「親も一緒に楽しむことが究極の育脳」というアドバイスでした。

瀧靖之(東北大学 教授)
東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター副センター長。医師、医学博士。16万人以上の脳のMRI画像を読影・解析し、脳の発達や加齢のメカニズムを研究。

子どもの知的好奇心を伸ばし、賢い子に育てるために欠かせない自然体験だが、子どもに『やりなさい』と強制するだけで、親が興味のない態度をとっていては、子どもの知的好奇心は育たないと瀧先生は語っています。

「自然体験は“親子一緒に楽しみながらやること”が大切です。脳にはミラーニューロンといって『模倣すること』に特化している神経領域があり、子どもは模倣(=真似)によって、さまざまな能力を獲得するからです。子どもの知的好奇心に火をつけたいなら、親も子どもと一緒に自然を楽しむことが大切。釣りや虫捕り、登山や磯遊びなど、親が楽しそうにやっていれば子どもも興味をもち、一緒にやりたがります」

仕事や家事に追われ、「子どもと一緒に楽しむ余裕がない」という人も多いかもしれませんが、賢い子どもに育てるには親も少し努力が必要なのだ、と語っています。

「子どもと一緒に自然体験をする。その少しの努力が、将来10倍、100倍になって返ってきます。 高校生になって高いお金を払って塾に通わせ、急に『勉強しなさい』と強制しても、子どもは思うように勉強してくれません。でも、子どものころに少しの時間とお金を費やして、親子で一緒に自然体験を試みれば、子どもの知的好奇心が育ち、進んで学ぼうとする力も身に付きます。何よりも親子のコミュニケーションが深まりますし、健康やストレス解消にも好影響があることでしょう」

また、自然に興味を持ち始めた子どもに対しては、親がリアルとバーチャルを結びつけてあげることがおすすめだとも説明されています。

「例えば、子どもが釣りをして魚に興味をもったら、魚や生き物、海や川の図鑑を与えてみる。本物(リアル)と図鑑(バーチャル)を繰り返すと、子どもの知的好奇心を大きく高めることにつながります。リアルとバーチャルをつなぐことで、子どもは世界の広がりや奥深さを知り、さらに無限の学びの世界へと興味の幅を広げていくのです。図鑑は体系立てて見ることができる上に、全体の知識を物理的に把握できるのでおすすめです。ちなみに脳が発達するときは、発達段階に合わせて〝脳のネットワーク〞と呼ばれるさまざまな道路が作られます。この道路は刺激を受けるほど増えるのですが、ある段階で使われない道路は少しずつ壊され、頻繁に使う道路はより強靭な道路に進化します。そのため、子どもの脳が発達のピークを迎えるまでに、より多くの刺激を脳に与え、道路をたくさん作ってあげることが大切です」

確かに図鑑で知識が身につけば、自然体験での喜びや感動も一層大きくなるだろう。「これ知っている」という高揚感や満足感は、子どもの知的好奇心を一気に引き上げてくれるはずです。
さて、最後に子どもの知的好奇心を高め、賢い脳を育てるために、親はどのような距離感で子どもの自然体験をサポートすればいいものかをお聞きしてみました。

「例えて言うならば、前から子どもの手を無理やり引っ張るのではなく、後ろからそっと背中を押してあげるイメージです。子どもが自分からやりたいと言ったことは積極的にやらせてあげて、主体性に任せることが大切です。自然体験でさまざまな困難や課題を乗り越え達成感を得ることで、子どもの中に自信が育ち、自己肯定感が高まります。自己肯定感とは自分を認め、自分を好きだと思う気持ちや感覚のことです。そのためにもまずは、子どもが何に興味を持っているのかを親が把握することが必要でしょう。興味の対象が親と異なっていても、子どもをよく観察し、理解し、子どもの好奇心を大切に、子どもの興味を広げる手助けをしてあげたいものです。自然体験の前後には図鑑を与えたり、特には博物館に連れて行ったりして、リアルとバーチャルを繰り返し、子どもの脳にとって最適な環境を整えてあげられるといいですね。親が子どもに期待する賢さの最終地点は、子どもが自主的に学び、知的好奇心をもって創意工夫できることではないでしょうか。これは勉強やスポーツ、仕事など、すべてにつながるモチベーションです。受験や就職はあくまで通過点。子どもの人生が豊かなものになるために親はどんなサポートをするべきか、しっかり考えたいものです。まずは親子一緒に自然を楽しんでください。自然の雄大さや不思議さに触れる体験を通して、子どもの知的好奇心と主体性を育んでほしいと思います」と、アドバイスを頂きました。

取材:帆足泰子

New Articles