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『BE EARTH-FRIENDLY -漁網アップサイクルプロジェクト-』(前編)
「自然との共生」という視点からとらえた環境課題への取り組み

2023.04.03

日本で1年間に新規供給される衣類の量は約82万トン。その約9割に相当する約79万トンが家庭や店舗から処分され、そのうち約50万トンが焼却、埋め立てされているそうだ。衣類廃棄については日本だけでなく世界中で問題となっており、SDGsの観点から、作り手・買い手ともに衣類の再資源化、環境負荷低減への意識が求められている。そんな中、漁業協同組合・再生資源メーカー・フィッシングブランドによるプロジェクトが動き出した。「BE EARTH-FRIENDLY -漁網アップサイクルプロジェクト-」である。漁業関係者の課題であった廃棄漁網を原材料にウエアなどに再生するというサステナブルなものづくりへの挑戦「BE EARTH-FRIENDLY -漁網アップサイクルプロジェクト-」の流れを追った。

(画像提供:北海道漁業協同組合)

「BE EARTH-FRIENDLY -漁網アップサイクルプロジェクト-(以下:漁網アップサイクルプロジェクト)」とは、2022年3月より始動した北海道の漁業関係者を束ねる北海道漁業協同組合(以下:北海道ぎょれん)とサーキュラーエコノミーを実践する再生資源メーカーのリファインバースの協力を得て、フィッシングブランド「DAIWA」が環境負荷の低減のために構築した新しいサステナブルなものづくりの取り組みである。使用済みの廃棄漁網から再生した素材を活用し、レインウエアをはじめ各種衣料などのアパレルアイテムを製造・発表している。

「漁網アップサイクルプロジェクト」の特筆すべきところは、漁業関係者が使用した廃棄される漁網として、漁業関係者が着るレインウエアとして再生されるというアップサイクルされる点だ。プラスチック製の廃棄漁網を原材料に鞄や雑貨に生まれ変わらせた事例はすでにあるが、漁業関係者から漁業関係者へとぐるりと循環する再生のカタチは、新しいアップサイクルのあり方として広く注目を集めている。アップサイクルは「創造的再利用」とも言われており、本来であれば捨てられるはずの廃棄物にデザインやアイデアという価値を持たせることで、新しい製品に生まれ変わらせるリサイクルの形だ。廃棄漁網が漁業とは関係のない製品に生まれ変わるというのは資源の再利用としての一つの形ではもちろんあるが、姿を変えて再び漁業関係者の役に立つものへと生まれ変わるというのは、やはり興味深い。

『BE EARTH-FRIENDLY -漁網アップサイクルプロジェクト-』の流れを示すイメージ図。廃棄漁網がさまざまな工程を経て、漁業関係者のレインウエアとなる流れがわかる。

「DAIWA」が取り組むこのプロジェクトには、廃棄漁網を回収する北海道ぎょれんと廃棄漁網をペレット化し新素材を作り出すリファインバースの協力が欠かせない。まずは北海道ぎょれんの取り組みを紹介したい。
近年、環境問題の観点から廃棄漁網が課題になることが多いが、その理由の一つとして、廃棄漁網の処理の問題がある。日本は海に囲まれた海洋国家であり漁法や道具は時代に合わせて進化を遂げてきたが、漁業に使われ寿命を迎えた廃棄漁網を活用する仕組みは、これまでほとんど整備されてこなかった。使用済みの廃棄漁網は廃プラスチックとして海外に輸出されるか、国内で埋め立て処分されてきたのだ。漁網に限らず日本は廃プラスチックの輸出大国だったが、2017年に中国が廃プラスチックの輸入を規制し、その後、アジア諸国も廃プラスチックの輸入規制を導入したことで、日本の廃棄漁網は徐々に行き場を失っていった。漁法やコストの面からも使用を見直すことはなかなか難しく、加えて、埋め立て処分できる土地にも限りがある。この現状に問題意識を強く持ったのは北海道各地の漁協を束ねる北海道ぎょれんである。日本一の水揚げ量を誇る北海道では毎年6000トンのうち、およそ2000トンの漁網が使用済みとなり、その約6割が埋め立て処分されてきたそうだ。SDGsへの意識の高まりとともに環境負荷低減を模索するようになり、北海道ぎょれんでも廃棄漁網の活用を考えるようになったという。北海道ぎょれん購買部 長谷川拓也さんにお話をうかがった。
「北海道ぎょれんとして廃棄漁網への対応を検討していたところ、再生素材メーカーのリファインバースさんとご縁ができ、『廃棄漁網を使ってサステナブルな取り組みをやってみませんか』と声をかけていただきました。SDGsの観点から私たちも必要性を感じていたため、早速、廃棄漁網の再資源化に取り組むことになったのです」

2022年、北海道ぎょれんは北海道苫小牧に新たに建設されたリサイクル工場と連携し、北海道各地の漁業者に廃棄漁網回収の協力を呼びかけた。3月から引き取りを開始し、6月に工場が稼働すると、9月末には60トンもの廃棄漁網を回収することができた。2023年3月には回収量が100トンに迫る見込みだ。
「初年度からこんなに回収できるとは、正直思っていませんでした。現時点では埋め立て費用より、リサイクル工場までの輸送費の方が高い場合もあるからです。それでも多くの漁師さんが『地球のためにやろう』と言ってくれました」

魚の通り道に網を仕掛ける刺し網漁のイメージ。(イラスト:農林水産省「漁業種類イラスト集」より使用)

北海道では定置網漁や底引網漁などさまざまな漁法が行われているが、中でも魚の通り道に罠を仕掛ける刺し網漁が盛んである。漁法によって使用する網が異なり、リサイクル原料として対象となるのは一般的にナイロン製もしくはポリエチレン製の魚網となる。刺し網漁の網はナイロン製でアップサイクルに適しているため、北海道ぎょれんは回収対象を刺し網漁の廃棄漁網としている。ただし、使用済みとなった廃棄漁網をそのまま回収することはできない。漁業関係者に網に付いている浮子やロープ、ごみなどを取り除いてもらう必要があるのだ。北海道ぎょれんの長谷川さんは、異物を取り除く作業はとても大切な工程だという。
「アップサイクルの素材として対象になるのはナイロン製の網部分のみ。浮子やロープ、網に絡まっているごみなどは取り除く必要があります。工場でも異物除去の工程は行われますが、すべてを工場に任せるのではなく、自分たちできちんと異物を取り除いた廃棄漁網を工場に届けるという意識が漁業関係者にも求められるのです。そこで北海道ぎょれんでは、漁業関係者向けに廃棄漁網の回収に向けた異物除去方法の情報発信を行なっています」

工場内で行われている異物除去の様子。この後、切断、洗浄、粉砕へと進む。(画像提供:北海道漁業協同組合)

北海道の漁業関係者の環境への想いや北海道ぎょれんの細やかな取り組みは、「漁網アップサイクルプロジェクト」のまさに土台となっている。漁網を回収した地域がはっきりとわかっているというのはトレーサビリティーの観点からも重要だ。長谷川さんはこのプロジェクトに協力することを決めた理由を次のように語ってくれた。
「プロジェクトへの協力を決めたのは、漁網を新たな形で漁業関係者に戻せると感じたからです。廃棄漁網がレインウエアに生まれ変わって、再び漁業関係者のところに戻る。円を描くようにつながっていくのがいいですね」
後編となる次回は、北海道ぎょれんが回収した廃棄漁網をペレット化し新素材に再生させたリファインバースの取り組みとアップサイクルしたウエアを国内外で発表したプロジェクトの展開について紹介する。

参考:環境省 令和2年度 ファッションと環境に関する調査業務 -「ファッションと環境」調査結果-、公益財団法人日本水産資源保護協会「季報2022年夏通巻571」
画像提供協力:北海道漁業協同組合

取材編集:帆足泰子

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