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『BE EARTH-FRIENDLY -漁網アップサイクルプロジェクト-』(後編)
サステナブルな社会を目指す取り組みの構築

2023.04.17

2022年3月より始動した『BE EARTH-FRIENDLY -漁網アップサイクルプロジェクト-』は、廃棄漁網を原材料にレインウエアなどに再生するサステナブルなものづくりを提唱している。情報発信にも力を入れており、「楽天ファッションウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」で産学連繋のファッションコンペを開催したり、ドイツ・ミュンヘンで開催された国際スポーツ用品専門見本市「ISPO Munich 2022」に出展するなど、廃棄漁網をアップサイクルする意義を国内外に広めている。そしてプロジェクトは今、さらなるサステナブルな展開に向けて動き始めた。

Rakuten Fashion Week TOKYO 2022 A/W

3年ぶりのリアル開催となった「釣りフェスティバル2023 in Yokohama」、「フィッシングショーOSAKA2023」では、「BE EARTH-FRIENDLY -漁網アップサイクルプロジェクト-(以下:漁網アップサイクルプロジェクト)」の展示が行われた。フィッシングの「DAIWA」ブースの一角に設けられ、アップサイクルの過程や廃棄漁網から再生した素材を活用したウエアやバッグなどが展示され注目を集めた。「漁網アップサイクルプロジェクト」は始動当初より、国内外でさまざまな展示を行い、発信を行ってきた。国内ではプロジェクト第1弾として「楽天ファッションウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」に参加。廃棄漁網からアップサイクルされたレインジャケットやパンツ、サロペットの展示と同時に、漁網が再生素材となる工程も紹介した。秋にはプロジェクト第2弾として、文化学園と東京藝術大学との産学連繋でファッションコンペを開催。東京藝術大学の学生が廃棄漁網を再利用し会場の装飾へと生まれ変わらせ、文化学園の学生が廃棄漁網から再生された素材を使って全24体のファッションアイテムを製作した。アートやファッションの視点で学生たちと協働したことで多くのメディアが注目し、若い世代にも廃棄漁網の現状を伝えることにつながった。また2022年11月にはドイツ・ミュンヘンで開催された世界最大の国際スポーツ用品専門見本市「ISPO Munich 2022」に出展。廃棄漁網を再生するサステナブルなものづくりを海外でも提唱し、廃棄漁網を素材としているとは思えないウエアのクオリティに来場者から注目が集まった。

「釣りフェスティバル2023 in Yokohama」の「DAIWA」ブースとその一角に設けられた「魚網アップサイクルプロジェクト」展示の様子。
プロジェクト第1弾として参加した「楽天ファッションウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO)」では、キューブ状に圧縮された廃棄漁網が展示された。
Rakuten Fashion Week TOKYO 2022 A/W

「漁網アップサイクルプロジェクト」には、北海道の漁業関係者から廃棄漁網を回収する北海道漁業協同組合(以下:北海道ぎょれん)とサーキュラーエコノミーを実践する再生資源メーカーのリファインバースの協力が欠かせない。北海道ぎょれんの取り組みについては
前編で紹介した通り。後編となる今回は、独自テクノロジーで廃棄漁網から再生ナイロン樹
脂「REAMIDE○R」を開発したリファインバースの取り組みを紹介したい。リファインバース素材ビジネス部長 玉城吾郎さんがREAMIDE○Rについて教えてくれた。

「REAMIDE®は再生ナイロン樹脂のブランド名です。用途や求められる耐久性に合わせてガラス繊維やゴムなどを混ぜて調整します。すでに自動車部品や建材、椅子の座面などには使用されているのですが、2022年にアパレル用ニット系の糸をREAMIDE®として作ることに成功しました。今回のプロジェクトでも使用されています。ナイロン素材を扱う工場で出た端材をナイロン樹脂に再生する例は他にもありますが、使用済みの廃棄漁網を素材として再生しているのは、今のところ弊社だけです」

廃棄漁網はリサイクル工場で分別、切断、洗浄、粉砕を行った後、ペレット状の再生ナイロン樹脂として新たに生まれ変わる。(画像提供:リファインバース)
ペレットから糸状に加工されたREAMIDE®。サステナブルな素材としてファッション業界から注目されている。(画像提供:リファインバース)

「漁網アップサイクルプロジェクト」では北海道ぎょれんの協力のもと北海道の漁業関係者が使用した漁網を使用し、トレーサビリティーを明確にしている。しかし廃棄漁網の問題は北海道だけの課題ではない。リファインバースでは北海道以外の廃棄漁網の再生にも取り組んでいる。「弊社試算では、まだ国内の廃棄漁網の5分の1程度しか再生できていません。今後はその量をもっと増やしていきたいと思います」と、玉城さんは想いを語ってくれた。また、再生素材であるREAMIDE®はCO2排出削減にも大きく貢献しているという。石油から新たに作られたバージンナイロンに比べ、REAMIDE®はその製造過程でCO2排出量を約85%も削減できるそうだ。「漁網アップサイクルプロジェクト」は、漁業関係者の課題であった廃棄漁網を使用することで環境負荷を低減するだけでなく、CO2削減という意味でも環境への貢献度は高いといえるだろう。

プロジェクト始動から約1年。廃棄漁網を再生するサステナブルなものづくりを国内外に提唱してきたが、いよいよ製品としての販売体制が整ってきた。漁業関係者が使用し廃棄となった漁網がアップサイクルの工程を経て、「DAIWA」のレインウエアとして再び漁業関係者の元へと還るのだ。このサステナブルなアップサイクルのストーリーに共感する人はきっと多いだろう。漁業関係者が抱えてきた廃棄漁網の課題と全地球で取り組むべきカーボンニュートラルというCO2排出削減に取り組み、そして大量生産・大量消費を続けるファッション業界にも一石を投じた「漁網アップサイクルプロジェクト」。このプロジェクトが提唱するものづくりのあり方が多くの人の共感を集め、サステナブルな意識を社会に加速させていくことを期待したい。

取材編集:帆足泰子

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