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仁礼会
守るべきは、自然の摂理
変えるべきは、自然への人の接し方

2022.10.01

グローブライドでは長野県の森林里親制度により、2005年から須坂市仁礼地区の森づくりに協力している。その山林を維持管理するのは一般財団法人仁礼会。山林に対する先進的な考え方は広く知られているが、森と水を守るための彼らが始めた新たな取り組みに、今、注目が集まっている。理事長の若林武雄さんにお話をうかがった。

長野県須坂市仁礼地区。上信越高原国立公園内に位置する自然豊かなこの地域で、山と森を守るための新たな活動が始まっている。活動の中心となっているのは、一般財団法人仁礼会。1972年、この地域の人々が共有する山林を維持管理するために作った財団法人である。その活動の考え方は、実に先進的だ。約1700ヘクタールの仁礼地区の山林の内40万坪を長野県に寄付して、標高1500メートル付近に広がる峰の原高原にホテルやペンション用地、スキー場や別荘、ゴルフ場などを開発してもらう。その利益の一部を地元に還元してもらい、仁礼会はそれを原資に山林の維持管理を行う。環境保全への意識がまだ低かった50年前に、山の所有者それぞれが木を売って収益を上げることよりも、一緒に山林を維持管理することの方が、未来を見据えると大切であると考えたのだ。

「仁礼会の考え方は、50年を経た今でも画期的だと言われます。なぜこんな考え方をしたのか。その理由は簡単です。山をきちんと管理して森の健全さを維持できれば、森も空気も水も守れるからです。山と森が健全であれば、仁礼の森から流れる川の下流域の人たちの暮らしも守ることができます。峰の原高原の施設開発も仁礼の森を守ることが前提の開発ですから、長野県や須坂市とは常に連携して活動しています」

仁礼会では今、アフターコロナを見据え、二つの新たな活動をスタートさせた。一つは、この地域を「オフロードの聖地」にすること。2021年には観光庁事業の一環として、上信越高原国立公園の自然を活用したオフロードモータースポーツ「エンデューロ」を始めた。初めてのレース開催でありながら、なんと約130人も参加したというから驚きだ。

「仁礼会の役割は、山や森を手入れしてバイクが安全に走れるように整備をすること。エンデューロのフリーライドという競技の運営側と長野県や須坂市とをつなぎ、調整役となること。エンデューロはナンバープレートのないバイクを使いますから、警察ともやり取りをします。隣接の須坂市・井上地区等の山林もコースになっていますから、その地域の山林所有者にも協力をお願いします。参加者の家族や仲間も楽しめるように、須坂市観光協会、峰の原観光協会と一緒に観光ツアーを考えたりもします。エンデューロに参加する人も見る人も、皆んなに楽しんでもらいたいですからね。嬉しいのは、運営を担当する人たちと参加者の若者たちが山林の草刈りなどを手伝ってくれることです。彼らは、山と共存したいと言ってくれます。きちんと管理された山や森があってのエンデューロだということを彼らもわかっているんです」

仁礼会が取り組み始めたもう一つの活動は、古道の復活だ。須坂市には米子に不動寺があり、その先12キロメートルほど歩くと、日本三大瀑布の一つといわれる「米子大瀑布」があり、直線的に落ちる2つの滝、「不動滝」と「権現滝」が並ぶ。この滝の麓に奥之院が建立されており(とび地境内)、仁礼会では仁礼地区の大笹街道・大谷不動から米子不動奥の院までの古道を整備し、自然と歴史を楽しんでもらいながら山を歩いてもらおうと考えている。

「世界中の山を歩いている登山家の友人たちが“米子不動尊は世界に通用する!”と言ってくれたんです。そこで、たくさんの人が安全に歩けるように古道を整備してみようと思いました。昔、山越えで命を落とした人や馬、牛を供養した石仏や供養塔などが点在し、先人たちが歩いた歴史を感じることができます。現在、米子瀑布で滝行をするツアーも考案中です。ゆくゆくは米子から峰の原高原、菅平までつながる古道を復活・整備したいと思っています」

オフロードモータースポーツ「エンデューロ」や古道ツアーは、仁礼地区の山林の魅力をさらに広めてくれることだろう。そのためにも山林の維持管理が必要だ。仁礼会では伐採後にスギやカラマツなどの針葉樹を植樹するのではなく、その土地に自然に生える広葉樹の成長を手助けし、天然林の山林に変えていく計画を進めている。

「スギやカラマツなどの針葉樹がダメだとは思っていませんが、間伐や除伐、枝打ちなど、針葉樹の山林の維持にはかなり手間がかかるのです。その点、広葉樹は針葉樹ほど手間がかからずそのまま育ってくれます。しかも根が広がる木が多いので、災害対策にもなります。私たちの広葉樹の森づくりは、まず伐採の際に、30メートルほどの区画に1本、親となる広葉樹を残します。その木から種が落ち、木が育ちます。そうすることで、その土地の植生を崩さず、生態系を守った自然な森が育っていくのです。仁礼会の構成員には若い世代の人たちもいるのですが、手間のかかる山の手入れにはやはり消極的です。その点、広葉樹の手入れは手間も少なく、森の自然な成長を楽しむこともできます。大事なことは若い世代が山に入ることです。山に入れば癒されるし、自然の雄大さに感動する。その体験が、自分たちがこの山を守っていかなくてはいけないという意識の元になるのです」

グローブライドでは、2005(平成17)年から長野県が進める「森林の里親促進事業」に賛同し、仁礼会が所有する森林の一部を「グローブライド・水と緑と太陽の森林(もり)」として「森林の里親契約」を取り交わし、社員による下草刈りや伐採など、森林づくりや保全作業の協力を行なっている。就職内定式もここで行う。15年間継続してきた活動による森林CO2吸収量は、累計で2,634トン。2020年春には長野県より「森林CO2吸収量認証書」を取得した。

「森林の里親としての活動が、このほど長く続いている企業はほとんどありません。「グローブライドの森」は本来の山と森のあり方を大切に、きちんと手入れされているので、状態はとてもいいですよ。山に手を入れるということは、山を変えることではなく、自然を自然のままに維持管理するということ。人間の勝手で自然を変えてはいけないのです。変えるべきは、自然への人の接し方です。森に入ると自然の摂理がわかります。100年、200年先を見据えた長いサイクルの自然の摂理です。自然の摂理に触れると、人は自ずと自然への接し方が変わります。私たちはこれからも先人が守ってきた仁礼の山林の素晴らしさを守り続けます。そしてここを訪れる多くの人たちに自然へ接し方を問いかけていく活動を続けていきたいと思っています」

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