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地球の未来は変えられる!!
森林への取り組み次第で、温暖化も気候変動も。

2024.02.22

森林の二酸化炭素吸収能力は高く、温暖化抑制に大きく貢献していることが世界の科学者による森林研究から分かってきている。そして、森林の温暖化抑制について考える際には水との関係を知っておく必要があることを東京大学・熊谷朝臣教授に教えていただいた。今回は、世界の森林研究の取り組みと日本の現状、そして私たちの森林への向き合い方について、改めて熊谷教授にお聞きした。

まず、森林と水と二酸化炭素の関係を熊谷教授に教えていただき、森林破壊が気候変動に大きな影響を及ぼすことを知ることができた。森林がなければ上流域に降った雨のほとんどが地中に染み込み、もしくは地表を流れ、下流域に大きな水害をもたらしてしまう。
大規模な森林破壊は森林からの『蒸発散』(※1)を減らし、乾燥などの気候変動や自然災害を引き起こす大きな原因となるのだ。もちろん単純に森林からの『蒸発散』が減れば、雨量が減るというわけではない。地域ごとの特性や条件が異なるからだ。
ただ森林の保全管理を怠れば、街で暮らす私たちもなんらかの影響を受けることになるのは間違いなさそうである。

では、私たちは「どうすればいいのだろうか?」
東京大学で森林生物地球科学を研究する熊谷朝臣教授は、一つの希望を教えてくれた。
「今、世界では多くの森林再生の取り組みが進んでいます。例えば『ボン・チャレンジ』(※2)は破壊された森林を植林によって回復させる世界的活動で、2030年までに最低でも3億 5000万ヘクタールを再生することを目指しています。森林が回復するにつれて雨量と水資源が増加していく様子がみられています。森林を育てるには時間がかかりますから、温暖化や気候変動の危機が迫るなかでは焦燥感を覚えるかもしれませんが、森林に関心をもつことは私たちがすぐにできることです。できることから始めていく、それが大切ではないでしょうか」

2011年~2020年の調査によると、地球上の二酸化炭素の年間排出量は約388億トンCO2だったという。そのうち約半分は大気中に蓄積されていったが、残りの二酸化炭素を海と陸がほぼ同等の割合で吸収 したと考えられている。陸、つまり森林が二酸化炭素を吸収したのだ。
※ 推定誤差のため3者の合計が388億トンCO2にならないことに注意。(出典:Friedlingstein et al. 2022.Earth Syst.Sci.Data 14:1917)

『二酸化炭素吸収』や『蒸発散』によって大気中に水分を戻す森林の能力を考えると、地球上に森林を増やせば温暖化も気候変動も抑制できるかもしれないと期待は膨らむ。
「ボン・チャレンジ」のような活動をみると、植林による効果は間違いない。実は、現在の気候条件で森林にすることが可能な世界中の土地(市街地や農地を除外)の面積は、合わせて約9億ヘクタールという試算がある。

「地球上の二酸化炭素の排出量は、人類の直接的な活動によるものが年間約348億トンCO2、森林破壊によるものが約40億トンCO2だといわれています。そして地球上の森林面積が今よりも9億ヘクタール増えれば、総量で7660億トンCO2の二酸化炭素を吸収できるかもしれないという研究結果も出ています」

森林は一朝一夕に育つものではないが、これは驚くべき数字といえるだろう。
「ただ温暖化を森林の力で抑制する考え方は、まだまだ謎が多く、世界で大変活発に研究されています。このままの人間活動が続くと2100年には平均気温は最大6度、最低でも3度上昇するという予測があります。この予測に幅があるのは、植物の光合成の状況次第という側面もあるからです。森林の保全管理、植林への取り組み次第で地球の未来を変えられるかもしれないのです」

森林の力で温暖化を抑制する動きが世界中で広がるなか、その取り組みには注意すべき点もある。
「年数が経った古木は二酸化炭素の吸収能力が低くなります。つまり森林をきちんと管理して、適切な伐採と植林を繰り返す必要があるのです。古木を伐採して若い木を育てることによって二酸化炭素吸収能力は高まります。現在の日本では人工林の樹齢が50年を超えているものが多く、このままでは温暖化抑制能力は向上しません。森林の適切な保全管理は、自然災害防止や生態系保護なども必要です。そこで植林だけでなく保全管理にも注目する必要があるでしょう」

日本の人工林の齢級構成。齢級とは林齢を5年の幅でくくった単位。苗木を植栽した年を1年目として1~5年目の樹木を1齢級と数え、その後5年ごとに齢級が上がる。人工林の半数は50年を超える高齢級だ。 出典:林野庁「森林資源の現況」( R 4 . 3. 31)

いま、森林への向き合い方は「地球のため」ではなく、「自分たちのため」だということを忘れないでほしい、と熊谷教授は語ってもいる。「地球のためという考えでは、どこまでいっても他人事です。温暖化も気候変動も、私たちの問題なのです」

地球は人類が誕生するはるか前から様々な環境の変化を経験してきた。「ある生物が絶滅することがあっても、ある生物は生き残るし、地球そのものが壊れるようなことはないのです。つまり危機に直面しているのは地球ではなく、私たち人間なのです。そこを忘れないでほしいと思います」

国土の3分の2が森林である日本。しかし残念ながら、現在の日本においては森林への関心は一般的には高くないようだ。木の温もりや大切さについては以前より関心が高まってはいる、その一方で森林の保全管理についてはもっと具体的な意識変化や取り組みが必要ではないだろうか。
森林の温暖化抑制能力や気候変動との関係についても、私たちはもっと関心をもつべきだろう。「私たちは森林を守ろうと何気なく言いますが、森林に守られているのは私たちです」と教えてくれた熊谷教授の言葉が印象的だった。

地球環境の変化が大きな問題となっている今、森林が私たちを守ってくれている事実をしっかりと理解しておきたい。
まずは森林に関心をもつ。
そして『私たち自身のため』に、それぞれができることから始めていきたい。

※1:雨などによる土の中の水分を吸収し水蒸気となって樹木体内から外に放出するのが蒸散、葉や枝に当たった雨水が水蒸気となって大気中に放出するのが遮断蒸発、そしてこれらの働きを併せて『蒸発散』という。

※2:2011年にドイツ政府とIUCN(国際自然保護連合)の主導で始まった森林再生を進める国際的な取り組み。2030年までに3億5000万ヘクタールの森林を再生することを目標にしている。目標が達成されると二酸化炭素による温暖化を抑制するだけでなく、農村社会の収入機会にプラスの影響を与える可能性があると推定されている。

熊谷朝臣
東京大学大学院農学生命科学研究科 森林科学専攻森林生物地球科学研究室教授。気象学、植物生理学、生態学、水文学などの科学を駆使して、陸上生態系の物理環境と生物的反応を研究している。

資料・イラスト提供/熊谷朝臣

取材・原稿/帆足泰子

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