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日本の海に広がるマイクロプラスチック
タラ オセアン ジャパンが海洋調査に挑む

2024.06.10

日本の海はマイクロプラスチックのホットスポットである。しかし、マイクロプラスチックは微細サイズのため浮遊する様子を直接見ることは少なく、私たちはこの深刻さをあまり理解していない。フランスの公益財団法人タラ オセアン財団の日本支部であるタラ オセアン ジャパンは、マイクロプラスチックによる海洋汚染の深刻さを伝えるため、2020年より日本沿岸域の調査を行った。彼らが進める調査・研究への想いを紹介する。

海洋マイクロプラスチックの研究で世界的に評価が高い九州大学の磯辺篤彦教授らの調査によると、日本沿岸域の東アジア海域に浮遊するマイクロプラスチックの密度は世界平均の27倍なのだそうだ。残念ながら日本の海は、マイクロプラスチックのホットスポットとして世界から認識されている。この状況に大きな懸念をもち、2020年、タラ オセアン ジャパンによるプロジェクト「Tara JAMBIOマイクロプラスチック共同調査」がスタートした。日本沿岸域のマイクロプラスチックの調査である。

タラ オセアン ジャパンは、フランスで初めて海洋に特化した公益財団法人として認められたタラ オセアン財団の日本支部である。タラ オセアン財団は、2003年にファッションブランド「アニエスベー」の支援によって設立され、現在、同財団の海洋科学探査船「タラ号」が世界中で海洋調査と研究を行っている。調査研究の内容は全世界に向け発信され、科学的知見とともに海洋保全の重要性を伝えている。タラ オセアン ジャパンでは海洋科学者であるシルバン・アゴスティーニさんが理事の一人を務め、日本を拠点に活動している。シルバン・アゴスティーニさんは筑波大学の助教でもある。

タラ オセアン財団の海洋科学探査船「タラ号」は世界中の海で海洋調査を行っている。
「Tara JAMBIOマイクロプラスチック共同調査」で指揮を取るシルバン・アゴスティーニさん。

2020年からスタートした日本沿岸域のマイクロプラスチック調査は、日本の国立大学の附属の臨海実験所のネットワークである「マリンバイオ共同推進機構(JAMBIO)」と共同で行なわれた。3年間で約300サンプルを採取し、そのすべてからマイクロプラスチックを検出したという。シルバン・アゴスティーニさんは3年間の調査を経て、日本の海に広がるマイクロプラスチック問題に危機感を募らせる。

「調査の結果、日本沿岸域の表層海水では1km2あたり数十グラム、海底の堆積物では地点によって数百キロのマイクロプラスチックがあることが分かりました。数量であれば何億個にも相当するマイクロプラスチックが堆積するような場所もありました。」

採取した300サンプルすべてからマイクロプラスチックが検出されたという。

マイクロプラスチックは自然分解されることなく、半永久的に海に残る。
なかなか目ではとらえにくい5mm以下の微細なプラスチック片ということもあり、このまま何の対策もしなければ、マイクロプラスチック汚染は日本の海全体に広がり深刻さを増すことだろう。日本沿岸域の海がマイクロプラスチックのホットスポットとなる原因は、主に大陸や東南アジアから海流によって流されてくるプラスチックが細かく砕けマイクロプラスチックになるためだと推定されている。加えて日本の陸域から海へのプラスチック流出も、少なからず原因の一つとなっているはずだ。
プランクトンから小型魚、そして大型魚へとつながる海の食物連鎖を経て、マイクロプラスチックは私たち人間に取り込まれる。健康被害は未だ不明だが、その影響が分かってからでは遅すぎる。近年は世界的にプラスチック対策への意識が高まってきてもいるが、すでに海に流入し浮遊するマイクロプラスチックをすべて回収することは不可能であり、これ以上海洋プラスチック汚染を拡大させないことが私たちたちに求められている。

全国14カ所の臨海実験所と、香川県三豊市詫間町粟島にて調査を実施。約300のサンプルを採取し、そのすべてからマイクロフプラスチックを検出した。

シルバンさんら研究チームは、3年かけて日本最大規模の調査を実施し、全国14カ所の臨海実験所と香川県三豊市詫間町粟島の計15カ所の沿岸海域で、表層水と海底の泥や砂からサンプルを採取した。サンプルは乾燥させ、木片やプランクトンなどの有機物を分離、軽石などを除去し、再度乾燥させ、顕微鏡を使ってマイクロプラスチックを取り出す。約300あるサンプルからマイクロプラスチックを取り出す作業に数年かかり、解析が完了するにはさらに数年を要するという。
この調査を終えたシルバンさんらは現在、その結果を整理し論文発表に向けて準備を進めている。
「中間結果ではサンプルすべてからマイクロプラスチックを検出しました。日本沿岸域のマイクロプラスチック汚染がいかに深刻であるか分かりました。今回の調査を通して沿岸海域のマイクロプラスチックの量や分布状況が明らかになれば、日本の海を守る対策に必ず役立つと信じています。」

タラ オセアン財団の調査研究は、他にはない特徴がある。さまざまなアーティストが必ず調査に参加するのだ。アーティストは研究者と一緒に調査船に乗り、海の豊かさと同時に海に起こっている異変を直接体感する。科学者とは違うアーティストの視点で環境問題をとらえ、作品を通して豊かな海を守るための啓蒙活動につなげていくのだ。
この日本沿岸を調査した「Tara JAMBIOマイクロプラスチック共同調査」にも10名以上のアーティストが同行。写真や絵画、インスタレーション、詩、音楽など、さまざまな方法で海の問題を表現した。

香川県三豊市粟島において開催された - TARA JAMBIO ART PROJECT展 - の様子。

そして2024年、タラ オセアン ジャパンでは新たなプロジェクトを始動。「Tara JAMBIO ブルーカーボンプロジェクト」だ。ブルーカーボン生態系の実態と炭素循環の仕組みを明らかにするため、海藻や海草などを対象に調査・研究を行うのだという。その期間は4年間ほどを計画し、改めて「マリンバイオ共同推進機構(JAMBIO)」との共同研究となる。参加する研究者は、筑波大学・下田臨海実験センターの和田茂樹助教を筆頭に日本を代表するブルーカーボンの研究者たちから構成され、間違いなく大きなインパクトを世界に与える調査研究となることだろう。その詳細は改めて紹介したい。

海の現状を調査し、研究を深め、結果をまとめ発表する。プロジェクトの成果が広く認知されるようになるまでは長い時間を要するのだが、それでも時間と労力と情熱をかけて、海の現況を調査しなければ、いま起こっている異変に立ち向かう対策を考察することはできない。
私たちはまず、日本の海がマイクロプラスチックのホットスポットだという事実としっかりと向き合い、豊かな海を守るために何ができるかを一人ひとりが考えていく必要がある。
海洋保全の歩みをさらに進めていくために、「Tara JAMBIOマイクロプラスチック共同調査」の調査結果を待ちたい。

画像提供:タラ オセアン ジャパン
取材編集:帆足泰子

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