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親が自分の「好き」を楽しめば、
子どもの知的好奇心は大きく育つ
子どもの成長に欠かせない知的好奇心は、どのように育めばいいのだろうか。
習い事をさせたり、自然体験させたり…「親として子どものために何かをしてあげたい」と思う人は多いだろう。だが、脳科学者の瀧靖之さんによれば、「親が自分の『好き』を楽しむことが子どもの知的好奇心を育む」とのことだ。意外とも思えるコメントを頂戴し、改めて「子どもの知的好奇心の育て方」について伺った。
身の回りのさまざまなものに興味を持ち、驚き、感動して、「なぜ?」「どうして?」と探求心を深めていく。知的好奇心は子どもの成長に欠かせないものであり、自分で考え行動できる大人になるための土台を育む、と脳科学者の瀧靖之さんは語っている。
では、子どもの知的好奇心はどうやって育めばいいのか。
瀧さんは、「親がもっと自分を楽しむ」ことが大切だと言う。親になると自分の楽しみは多少の我慢をしてでも、子どもが喜びそうなことを優先しがちだ。しかし、親が自分の好きなことに熱中して人生を楽しむことは決してわがままなことではない。「パパが楽しそう」、「ママが笑っている」、そう感じた子どもは好きなことに熱中する親の様子に興味を持ち、自分も一緒に楽しみたいと思う。それこそが知的好奇心を育む原動力になるという。
脳科学者、医師、ビジネスマンとしてマルチステージで活躍し、家庭では中学生の父親として子育てに奮闘する東北大学の瀧靖之教授に、知的好奇心を育む子どもの育て方について事例を織り交ぜお聞きした。
子どもの脳の発達と知的好奇心
いつの時代も親は子どもの幸せを願うものです。
子どもに幸せになって欲しい、社会で成功して欲しい、と思うあまり、「○○しなさい」「もっと頑張りなさい」と、つい口うるさく言ってしまう方もいるでしょう。子どもへの深い愛情も、そのコミュニケーションを一歩間違えると子どもの心に辛い記憶を残してしまうことも…。
まず、少し肩の力を抜いてみませんか?
知的好奇心を育む子育てについて、一緒に考えていきましょう。
最初に子どもの脳の発達についてお話しします。
脳の発達は後ろから始まり、前に向かって進みます。まず、生後すぐに物を見る機能をつかさどる「後頭葉」が発達し、その後、音を聴く機能をつかさどる「側頭葉」が発達します。側頭葉の記憶に関係する領域が発達すると、発語が始まります。2歳頃から周囲への興味を広げ、歩行や会話ができるようになると知的好奇心が徐々に高まっていきます。
3歳頃からは子どもを外に連れ出して、自然体験を沢山させてください。
自然の不思議さや面白さが子どもの知的好奇心を大いに刺激するでしょう。また、3歳頃から運動能力が大きく伸びます。スポーツや楽器演奏を始めるには最適な時期です。
小学生から中学生頃には、コミュニケーションをつかさどる「前頭前野」の成長が加速します。前頭前野は「記憶、思考、判断、理解、言語など」の認知機能を担っています。認知機能の成長が加速していく前段階の幼少期に、非認知能力の一つである知的好奇心を育み、成長の土台を築いておくことはとても大切なことだと思います。
知的好奇心とは、「もっと知りたい」と思う気持ちです。
単に知識を得たいだけでなく、「努力を惜しまずどうしても知りたい」、「苦労してでもワクワク感を得たい」と思う気持ちが知的好奇心の本質です。
知的好奇心が高い子どもは「興味を持ったことについて自分で調べたり」、「新しいことにチャレンジしたり」、「自ら考え工夫するよう」になります。そうすると、勉強が苦痛ではなくなり、知識を得ることを楽しむようになるでしょう。知的好奇心は子どもの主体性を育て、主体性が高まることで自己肯定感や主観的幸福感が高まります。
知的好奇心が子どもの成長期にいかに重要なものであるかが分かると思います。また知的好奇心は子どもの成長期にのみ必要なものではなく、生涯に渡って育むことで私たちの人生がより豊かなものになるということは覚えておきたいものです。
子どもの知的好奇心を育むために必要なこと
では、子どもの知的好奇心はどのように育めばいいのでしょうか。
毎日の子育ては大変だと思いますが、まず、肩の力を抜いてください。
忙しい日々の中にも自分が熱中できるモノやコトはありますか?
心がワクワクするような楽しい趣味や興味を持っていますか?
子どもの知的好奇心は親が強制的に何かをさせることで育まれるものではありません。子どもの知的好奇心を育むには、親である大人が好奇心を持っていることが大切なのです。子どもは模倣によってルールや方法を学びます。最も身近な模倣の相手は親です。お箸の持ち方から言葉遣い、周囲との関わり合い方まで親のやり方を見て育ちます。
子どもは2〜3歳頃から親の行動を見ながら知的好奇心を高めていきますが、親が好奇心を持ってワクワクした日常を送っていなければ、子どもが知的好奇心を高めワクワクすることは難しいでしょう。
親の好奇心はスポーツでも音楽でも構いません。釣りに行ったり野球をしたり、料理をするのもいいでしょう。自分が楽しいと思えるところに、ぜひ子どもを連れて行って、一緒に楽しんでください。
親に好奇心があり、好きなモノやコトを楽しんでいると、子どもは親を模倣し、同じものに興味を持ち、一緒に楽しみたいと思うようになるでしょう。モノやコトへの「ハマり方」を学び、考え、工夫することで楽しさが倍増していくことを体感します。
やがて、子ども自身が「自分が好きなもの」を意識するようになり、自主的に探究心を深めていきます。知的好奇心の芽生えです。子どもの知的好奇心が親の好きなものとは違うものに向くこともあるでしょう。お互いの熱中体験について親子で話せばコミュニケーションは深まりますし、話題も尽きません。
知的好奇心が勉強に与える効果とは
子どもが学校に行き始めると親としては勉強や成績についても、気になるところかと思います。知的好奇心と勉強との関係についてもお話ししましょう。
例えば、自然体験の中で子どもがチョウに興味を持ったとします。
チョウを観察する中で知的好奇心が高まれば、もっとチョウのことを知りたいと思うようになります。そのとき親が図鑑などを与えてあげると、子どもはより知識を深めていくことができます。知識が深まれば、自然の中でチョウを観察することがますます楽しくなります。
自分が興味を持ったことに対して人より知識があるということは、子どもの自信にもつながります。このとき親は子どもの知識の多さを褒めるのではなく、知識を深めていった努力を褒めてあげてください。才能より努力を褒めることで、子どもは「やればできる」ことを覚え、探究心をさらに深めていくでしょう。
チョウの知識が深まっていくと、子どもはチョウから派生するさまざまな事象にも興味を持つようになります。なぜ、この種類のチョウはこの地域にいるのか。この地域の特徴は何か。地形は? 天候は? 植生は? 次々に調べていくようになるでしょう。
生き物や自然に知的好奇心を高めた子どもは、温暖化など環境問題にも興味を派生させていくことが多くあります。環境問題からエネルギー問題や国の政策などに関心を持つ子どももいるでしょう。チョウへの興味からこれだけの世界が広がっていく可能性があるのです。決して大袈裟な話ではありません。
知的好奇心があれば、親が「勉強しなさい」と言わなくても自らアンテナを広げ、知識を得たいと思うようになるのです。主体的に探究して得た知識があれば、学校の授業の理解も早くなるでしょう。また、「勉強したら○○をあげる」などの外発的動機では、子どもの知識の定着は難しいと考えられています。
「なぜ?」「どうして?」「知りたい!」という内発的動機こそが子どもの学力を伸ばしていくのです。内発的動機とは、まさに知的好奇心に他なりません。
親の伴走が子どもを孤独にしない
子どもが小学校の高学年になると、中学受験を検討するご家庭もあるでしょう。ほんの少しでも参考になればと思いまして、私の経験をお話しします。
私は子どもが中学受験をすることを決めてから2年間、子どもと一緒に勉強をしました。
勉強は孤独な作業ですから、ただ勉強しろと子どもを「走らせる」だけでは応援にはならないと思ったからです。一緒に勉強を楽しむことで、親として子どもに「伴走する」姿勢を見せることが大事だと思いました。
「勉強しなさい」ではなく「勉強しようよ」と話しかけ、並んで座り、一緒に問題を解きました。私にとって、この2年間は子どもとのコミュニケーションを深めることができた貴重な時間でした。鶴亀算や旅人算のような小学生の問題を子どもと一緒に考えることはとても楽しかったですし、親が勉強を楽しんでいる様子を見て、子どもは勉強することを孤独でつまらないものだと考えなかったでしょう。
一緒に楽しむ、一緒に熱中する
私のやり方は、中学受験を控えるすべてのご家庭に適してはいないかもしれませんが、親が物事を楽しんでいる様子を見せることは子どもの知的好奇心を育む基本姿勢となるものです。少なくとも親が「仕事がつまらない」と愚痴ばかりこぼしていたら、子どもは勉強をして社会に出ていくことの意味を見いだせなくなります。
親が自分を、日々を、人生を楽しんでいる姿を見せることが、子どもに希望を与え成長させるのです。
親が人生を楽しめば、子どもも楽しい
子どもの知的好奇心を大切に育んでください。
子ども時代にいろいろな物事に知的好奇心を持って熱中した体験は、マルチステージで活躍することが求められるこれからの時代に必ず役立つことでしょう。一つの枠に捉われず、自分の興味を広げ、チャレンジしていく力が備わっているからです。
そして大事なことは、子どもの知的好奇心は親が好奇心を持って毎日を楽しく過ごしているのかどうか、こんな親の姿が大きく影響するということです。
子どもは親を模倣します。まず、親である自分が楽しんでください。自分が好きなモノやコトにもっとワクワクしてください。親が人生を楽しんでいる姿を子どもが見れば、「人生って楽しそうだ」ときっと思うことでしょう。子育てには、それが一番大切なことだと私は思います。
- 瀧 靖之
- 医師 医学博士 脳科学者。
東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター センター長。東北大学加齢医学研究所教授。これまで脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達、加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。読影や解析をした脳MRIはこれまでに16万人にのぼる。『「賢い子」に育てる究極のコツ』(文響社)は10万部を超えるベストセラーに。ピアノ演奏やチョウの採集など多彩な趣味を持つ。一児の父。
取材編集:帆足泰子