Story

#043 枝廣憲さん―大学から始めたテニスが人生の軸になるまで

2026.10.20

大学時代にテニスと出会って以来、その奥深さに魅了され続けてきた枝廣憲さん。
ビジネスの第一線で活躍しながら競技にも挑み、家族との時間にも欠かせない存在だという。
「仕事をするために、テニスをしている」と語る枝廣さんに、自己研鑽にも通じるその面白さや、人とのつながり、人生を豊かにしてくれたテニスとの関係を伺った。

父がつないでくれた、テニスとの縁

――テニスを本格的に始めたのはいつからですか?

大学生の時です。もともと野球をやっていたので、スポーツは続けたいと思っていました。同時に、学生のうちに事業もやってみたかったんです。
スポーツも続けながら、自分の時間も持ちたい。そう考えて部活ではなくテニスサークルを選びました。

もう一つ大きかったのが父の存在です。
父は大阪大学の体育会テニス部に所属していて、卒業して官僚になってからもずっとラケットを握り続けていました。
今はもう他界していますが、小さいころは、よくテニスコートへ連れて行ってもらった記憶があります。

でも、当時の思い出は少し変わっています。
父がラリーをしている間、僕はずっとコートの横で待っているんです。子どもだから暇じゃないですか(笑)。

そばに置いてあったラケットを勝手に持ち出して、父たちのラリー中のボールを打ち返したら、ものすごく怒られました。
ラケットでボールを打った時の「なんだこれは?」という新鮮な感覚と、あの光景は今でも鮮明に覚えています。

――その経験が、大学でテニスを選ぶきっかけにもなったのでしょうか。

そうですね。ただ、最初は華やかなイメージだったし、本当に軽い気持ちでした。ところが始めてみたら、完全にハマってしまいました。

初心者だから、やればやるほど上達するんですよね。その感覚が面白くて、どんどんのめり込んでいきました。先輩から褒められると「もっとやりたい」「もっと上手くなりたい」と思うようになりました。そのうちテニスクラブのプレイヤーズクラスにも入れてもらって、最初は中学生たちと一緒に基礎から練習しました。大学から始めた僕にとって、そこが本当の意味でのスタートだったと思います。

身体で考える戦略的なスポーツ

――そこまで夢中になった理由は何だったのでしょうか?

身体を動かすことの楽しさはもちろん、僕にとっては、それ以上にチェスみたいな感覚の「戦略的に考えるスポーツ」だったからです。

ストロークだけでもフォアとバックがあって、トップスピンやスライスがあります。練習ではボレーもサーブもある。限られた時間の中で、何を優先すれば一番効率よく上手くなれるのかを考えますよね。試合になれば、さらに相手がいます。相手の弱点と自分のアドバンテージをどう組み合わせるかを考えるのもとにかく面白くて、どんどんのめり込んでいきました。

――その考え方は、仕事にも通じていますか。

かなり通じていますね。自分が一番大切にしているのは「クオリティファースト」です。
まず、アウトプットの質にこだわる。そのためなら時間をかけますし、お金をかけることで時間を短縮できるなら、コストもかけます。

今はプロやコーチとのネットワークもありますから、友達同士で何時間も練習するより、プロに教わって上達までの時間を短縮できるなら、その方がいいと思っています。勉強も、仕事も、テニスも同じです。使える時間は誰にでも限りがあるので、限られた時間をどう使うか、効率を意識することが基本だと考えています。

ただ、やりすぎて怪我もたくさんしましたから、結局、人間は節度が何より大事なんだと思います(笑)。

――テニスから学んだことで、仕事にも生きていることはありますか?
テニスは、自分のことだけを考えていても勝てない競技です。相手は何が得意で、どこが苦手なのかを常に意識して、自分のアドバンテージも考えます。

仕事も同じですよね。たとえば「このラケットはいいですよ」と言うだけでは売れません。
相手が何を求めているのか。何を知れば買いたいと思うのか。そこまで考えないと、仕事にはなりません。

そういう意味では、マーケティング的な考え方もテニスの中で自然と身についた気がします。

――団体戦についてはいかがですか?

団体戦は面白いですよ。個人戦より、ずっと怖いんですけどね。自分が負けたらチームが負けるかもしれないと思うと、闘争本能がものすごく上がるんです(笑)。

この前も団体戦で、日本でもトップクラスの中学生と男子ダブルスで当たったんです。僕のペアはすごく上手い人だったので、「これで負けたら僕のせいだな」と思いました。中学生相手に、めちゃくちゃ声を出していました(笑)。終わったあとに謝りましたけどね。

でも、団体戦では、どうすればチームが盛り上がるか、自分がどう振る舞えばみんなが力を発揮できるかを、自然と考えるようになるんです。リーダーシップが求められますから、必然的に仕事にも通じていると考えています。

テニスがつないだ、人との縁

テニスを通じて生まれた縁は、仕事だけにとどまらない。枝廣さんの話からは、テニスがさまざまな人とのつながりを生み、そこからさらに日々の暮らしへと広がっていることが伝わってくる。

――テニスは、人との出会いも広げてくれましたか?

はい。テニスに出会って人生に恵まれたと思う理由の一つが、人とのつながりです。テニスをきっかけに知り合って、今も一緒に仕事をしている経営者の方もいます。コートで出会って、そこから始まった会話が、気づけば仕事や新しい機会につながっています。一生懸命続けてきた人同士だからこそ、通じ合える感覚もあるんでしょうね。

特にテニスは頭も使うし、忍耐力も必要なスポーツです。だからなのか、テニス好きの経営者とは不思議なくらい話が合うんです。

僕はゴルフもやりますが、人を誘いやすいという意味ではテニスの方が圧倒的です。
「もう一人呼ぼうよ」と気軽に誘えるし、レベルが多少違っても一緒に楽しめるので、そうやって、人との縁が自然と広がっていくことも、テニスの魅力だと思っています。

――多忙な日々を送る中でも、テニスを続けてこられた理由は何でしょうか?

よく「趣味や余暇を楽しむために仕事をする」と言うじゃないですか。
でも僕の場合は逆なんです。仕事をするために、テニスをしている。

気持ちや身体が健康であることって、仕事をするうえで一番最初にあるファンダメンタルだと思っています。テニスをやっていない期間があると、メンタルの調子も良くなくなるし、太るんですよ(笑)。昼ご飯を食べたら眠くなって、「これじゃ仕事にならないな」って思うんです。

そうなると仕事にも気持ちが入らないんですよね。逆にテニスをしていると、身体も気持ちも整うので、「忙しい中でテニスをする時間をつくる」という感覚ではありません。テニスをしているから元気になって、結果的にもっと働きたくなるんです。むしろ、テニスをしているから忙しくなっているのかもしれませんね(笑)。

――生活の一部なんですね。

完全にそうです。僕は「エンゲル係数」ならぬ「テニス係数」が相当高いと思います(笑)。
テニスクラブにも2つ入っていますし、プライベートコーチもお願いしていますし、子どももレッスンを受けていますし、妻もずっとテニスをしていますし、それだけの価値があると思っています。

――ご家族もみなさんテニスをされているんですね。

上の世代からずっとテニスをやってきた家族なんです。高校で野球を辞めて、大学受験に向けて過ごしていた時期に、テニススクールへ誘ってくれたのは母だったんです。
「暇そうだから、一緒に体験レッスンへ行こうよ」と誘ってくれて。
母はそのままずっと続けています。

旅行へ行っても家族でテニスをしましたし、新婚旅行はウィンブルドンでした。
僕の母と妻の両親も一緒にイギリスへ行って、みんなで試合を観て、「ザ・キュー※」にも並びました。家族みんながテニス好きだからこそできた旅でしたね。ある程度仕事がうまくいったとき、親に家をプレゼントしましたが、それが僕の家から徒歩30秒くらいのところにあるんです。

今も同じテニスクラブへ通っているので、朝クラブへ行くと母がテニスをしています。父がきっかけをくれたテニスは、今は家族三世代へ広がっています。

そう考えると、本当に人生を支えてくれるスポーツなんだなと思います。

一視聴者から、「スタテニ」の未来をつくる側へ

父と訪れたテニスコートから始まったテニスとの関わりは、家族の中にも広がっている。
そして今、枝廣さんは、自分が受け取ったテニスの魅力を、次の世代へと伝えようとしている。

――現在は「スターテニスアカデミー」の運営にも携わっていますが、関わるようになった経緯は?

最初は、一視聴者としてのファンでしたから、まさか自分が経営に関わるとは思っていませんでした。

ある日、突然関係者から連絡をもらって、その日の夜に渋谷で会うことになったんです。話を聞く中で感じたのは、コンテンツは素晴らしい一方で、その先のビジョンをもっと描けるということでした。

当時の権利を持っていた会社と交渉して、もう一度「スタテニ」への思いを持つ人間の手でつくり直そうと決めました。そこから今の体制を整えていきました。今は経営を僕が預かり、発信の顔を小野田倫久さんにお願いしています。
だから僕らが掲げたのは、
「プロもジュニアも愛好家も、テニスを愛する気持ちが集まる場所をつくる」
ということです。

最近は、テニスコートも減っているし、大学のテニスサークルも少なくなっています。
だからこそ、

「昨日のスタテニ見た?」
「紹介されていたあれ、やってみようよ」

そんな会話が生まれる場所になれたらいいなと思っています。

YouTubeだけじゃなく、イベントかもしれないし、リアルな場所かもしれない。
テニスを好きな人たちが帰ってこられる場所をつくっていきたいですね。

――これからテニスを始める人へ伝えたいことはありますか。

まずは一回、やってみてください。身体を動かすことは気持ちいいし、人ともつながれます。競技として突き詰めても面白いし、家族や仲間とも楽しめます。

大学から始めた僕でも、テニスは人生を変えてくれました。
たくさんの人と出会って、仕事にもつながって、家族との時間もつくってくれました。
人生において、やってみて損はないスポーツだと思います。


――枝廣さんご自身の次の目標は?

人生の目標は5年刻みで考えていまして、45歳までに「全日本に出る」と決めて、それは達成できました。

次のテーマは「グローバル」です。
目標を決めると、「今、何をやるべきか」が具体的になります。
テニスも仕事も同じです。

ただ「上手くなりたい」ではなく、「何を変えるか」まで考えるようにしています。
その積み重ねが未来をつくるんだと思っています。

それに最近は子どもたちの世代のことも考えるようになりました。
「スタテニ」が世界へ広がれば、自分のやりたいこととも重なっていきます。
自分の夢と、事業の成長が同じ方向を向いています。

それが一番幸せなのかもしれません。
言ってしまえば、戦略的な私利私欲なんですけどね(笑)。

父に連れられて訪れたテニスコートから始まった一つの縁は、仕事へ、家族へ、そして次の世代へとつながっている。
大学から始めたテニスは、自分を整え、挑戦する力を与え、人生を支える軸になった。そして今、その魅力を次の誰かへ手渡そうとしている。

枝廣さんにとってテニスは、人生を豊かにするだけでなく、仕事や家族との時間を支える「ファンダメンタル」なのかもしれない。

※「ザ・キュー(The Queue)」とは、テニスの四大大会(グランドスラム)の一つであるウィンブルドン選手権で、当日券を購入するために観客が並ぶ伝統的な待機列のこと。世界中から集まったファンが会場近くでテントを張り、一夜を過ごして開場を待つ、ウィンブルドン名物として知られている。


■プロフィール|枝廣憲(えだひろ・けん)

一橋大学経済学部卒業後、2004年に電通に入社。2012年にgloopsへ入社し、マーケティング本部長、CMOなどを歴任。2014年にKing Japan代表取締役に就任し、「キャンディークラッシュ」などのプロダクト開発・マーケティングを統括。19年にビズリーチへ入社し、現在は同社執行役員 CSMOを務める。大学時代に本格的にテニスを始め、現在も競技を続けるほか、「スターテニスアカデミー」の運営にも携わっている。



【スタッフクレジット】
Photo : Masashi Ura
Text : Jun Ashizawa
Produce : Hiroyuki Sasaki(neu Inc.)

Storyとは「ライフタイムスポーツを楽しむ人たちの物語」

私には私の、あなたにはあなたの。スポーツの楽しみ方は人それぞれ。
⾃然の中で⾝体を動かすライフタイムスポーツを楽しみながら、人生を彩り豊かに過ごしている方は活力があり、魅力にあふれています。 その方たちは決してプロばかりではありません。
このコンテンツ「Story」では様々な楽しみ方で、自然とスポーツとともに日々を過ごしている人たちを取材し、ライフタイムスポーツの魅力とは何かをコンテンツを通して皆さんと一緒に感じていきたいと思っています。