Story ライフタイムスポーツを楽しむ人たちの物語。
#044 橋爪悠也さん(アーティスト)、相馬逸人さん(ファッションディレクター)―「受け継いだ夏を、また次の夏へ。」

毎年6月から9月までの限られた期間、川に足繁く通い鮎の友釣りに勤しむ二人がいた。
アーティストの橋爪悠也さんは地元、岡山に帰省した際に釣り好きの父親の影響で10年ほど前から鮎の友釣りの魅力にハマっていったのだという。
そして仕事がきっかけで知り合い、そこから10年来の友人であるファッションディレクター相馬逸人さんを誘い二人で川に通うようになっていった。

二人が友釣りに出会った原点とは
鮎を釣るという行為は元々漁で、そのいくつかある方法の中のひとつが友釣りとなるがその手法の独特さ。



橋爪さん:「東京から帰省したときに友釣りをしている父親について行くことが親子のコミュニケーションになっていました。そうしているうちにどんどん詳しくなっていって、その面白さも分かってきて、友釣りを真剣にやろうと思ったんです」
相馬さん:「僕は小さいころに少し釣りをやったことがある程度だったのですが、橋爪さんが友釣りを始めて1〜2年ほど経ったタイミングで誘ってもらいました。アウトドアが好きだったので、その延長線上で一緒に出掛けたのがきっかけです。そのときは釣り道具も橋爪さんから借りたのですが、事細かく教わるというよりは、一度やっているところを見せてもらって、見よう見真似でやってみたら何匹か釣れたんです。そこで僕もすごくハマりましたね。そのあと道具も一式買って、2回目からはもう自分の道具で行くようになりました」

二人で友釣りに行くようになり4〜5年経ち、シーズンに入るとかなりの頻度で出掛けるという。
このインタビューの数日前にも二人で行ってきたばかりで、ホームにしている河川には顔馴染みもいるそうだ。
二人にとって友釣りとはどういう存在なのか
友釣りは江戸時代からある漁で、この釣り方は日本独自のものだと橋爪さんは言う。
一般的に、友釣りは“難しい”とか“敷居が高い”というイメージがあるというが、二人にとって友釣りとはどういう存在なのだろうか。

橋爪さん:「日本発祥のこの“友釣り”という文化はもう出来上がっていて、その伝統というか、文化のなかに入っていく面白さにグッとくる部分があります。釣り人口が減っているといわれているなかで、日本人として、この文化としての“友釣り”を絶やさないようにしたいという気持ちがモチベーションになっていますね」


相馬さん:「友釣りって従来の釣りとは違い、縄張りを威嚇してきた鮎を釣るというところに、魚との距離感の違いを感じるんです。僕はそこがすごく好きですね。あとはやっぱり自然相手なので、自分の思い通りに行くときもあれば、行かないときもあって。そんなときは自分と向き合うというか、さまざまなことを整理したりします。もうひとつ言うと橋爪さんと昼休憩とかにお互いの近況報告なんかをしたりしているんですが、友釣りでそういう週末を過ごすのが僕にとっては特別な時間になっているんだと思います」

鮎の友釣りに、新しい入口をつくる「KOKE(コケ)」
アーティストの橋爪悠也とファッションディレクターの相馬逸人。異なるフィールドで活躍する二人が、2023年に立ち上げたコミュニティが「KOKE(コケ)」だ。
オリジナルグッズの制作や、友釣りの様子を収めた動画の発信、SNSでの道具紹介など、その活動は多岐にわたる。アートやファッションの感性を取り入れながら、従来の友釣りとは少し異なる角度から、その魅力を伝えている。


しかし、二人が目指しているのは、単に友釣りを新しく見せることではない。長い歴史を持つこの文化を、もっと身近なものとして感じてもらいたい。そんな思いが活動の根底にある。
橋爪さん:「KOKEは2023年からはじまったのですが、先ほども話題にあがった“難しい”とか“敷居が高い”というイメージを持っている方に、もっと気軽に考えてほしいというか。二人がやっていることを紹介して、興味を持ってくれた人の受け皿になれたらと思っています。
お互いの知人や口コミなどでゆっくり広まっている感じなのですが、コミュニティが大きくなれば、できることや役割のようなものも変わってくるのかなと思います。今は自分たちのペースでゆっくり進んでいる感覚ですね。
たとえばファッションとか道具とか、従来の友釣りの印象を少し違う角度から表現している感じでしょうか」

二人が川に立ち続ける理由
二人が一緒に友釣りを楽しむようになって、およそ5年。シーズンが訪れるたびに川へ足を運び、自然と向き合いながら時間を過ごしてきた。
釣果だけでは語れない友釣りの魅力とは何なのだろうか。心に残る出来事や、身体に刻まれた感覚について尋ねると、二人から返ってきたのは、何気ない季節の移ろいや、川で過ごす時間そのものを愛おしむ言葉だった。
橋爪さん:「シーズン中は頻繁に川に通っていて、いつどんな出来事があったのかはあまり思い出せないのですが、最近は歳のせいか、一日中はできなくなってきていますね。前までは早朝に川に入って夕方まで釣っていたのですが、なかなか難しくなってきました。日中、カンカン照りで蝉が鳴いている中で釣りをしていて、それが9月になってくるとスズムシの声に変わってきて。季節の移り変わりを感じながら『こういうのっていいね』って二人で話していましたね」
相馬さん:「それは僕も覚えていて。大人の夏休みじゃないけど、そういうのっていいですよね。シーズンは決まっているし、雨が降ってしまうと行けないし、結構貴重な時間なので大切にしているんですよ。
つい最近の出来事ですけど、おとりの鮎を2匹ずつ買って、僕がその2匹をすぐにロストしてしまい、橋爪さんから1匹もらって、お互い1匹ずつで釣っていたのですが、あの緊張感もいま思うと楽しかったですね」
思い通りに釣れた日も、そうでなかった日も、川で過ごした時間はかけがえのない記憶になっていく。水の流れや季節の音、仲間と共有する一瞬の緊張感。そんな体験の積み重ねこそが、二人を毎年川へと向かわせる理由なのかもしれない。


好きだからこそ、次の世代へ。友釣りという文化の未来
友釣りは、単なるフィッシングなのか。それとも、日本に受け継がれてきた文化なのか。その問いに対して、二人は「フィッシング」という言葉だけでは表現しきれない思いを語ってくれた。
鮎の生態や川の環境を知り、道具を使いこなし、自然の変化を身体で感じ取る。長い年月をかけて受け継がれてきた友釣りには、釣るという行為を超えた奥深さがある。そして二人にとっては、毎年訪れる限られた季節を楽しむ、欠かすことのできないライフスタイルでもある。
橋爪さん:「英語というか横文字を使った方がもっと世間に広まるのかとも思いながらも、やはり歴史あるものなので、友釣りに限らず鮎釣り全体を文化一式として捉えているところはありますね。そして趣味なのか、ライフスタイルなのかと言われると、毎年友釣りのこのシーズンはクライアントさんにも『あまり仕事入れないで』(笑)と頼んでいるぐらいなので、趣味という域は超えているのではないかと思います。鮎は秋に産卵を終えると死んでしまう年魚(ねんぎょ)で、1年中できる釣りではないので、期間限定のライフスタイルとしてこの時期を大切にしていますね」
相馬さん:「そろそろシーズンも終わりますが、今年もたくさん行きましたね。僕の場合は週末が中心になってくるのですが、この時期になると自然と川に行くことを考えるようになります。限られた季節だからこそ、一回一回の釣行が特別な時間になっていると思います」

二人の言葉から伝わってくるのは、友釣りという文化への深い敬意と、何よりも、心から友釣りを楽しむ純粋な気持ちだ。その姿には、子どものころ、夢中になって遊んだ夏の日々を思い起こさせるような、どこか懐かしい空気が漂う。まさに「大人の夏休み」という言葉がふさわしい。
限られた季節を待ちわび、川に立ち、自然の変化に心を動かされる。その喜びを知っているからこそ、もっと多くの人にも体験してほしい。そして、長い歴史の中で育まれてきた友釣りの文化を、次の世代にも残していきたい。
KOKEの活動も、そんな思いの延長線上にあるのだろう。アートやファッションという二人ならではの感性は、これまで友釣りに触れる機会のなかった人たちにとって、新たな入口になるかもしれない。文化を継承することは、決して伝統を守ることだけではない。その魅力を自分たち自身が楽しみ、誰かに伝え、また次の誰かへとつないでいくこと。

友釣りを愛する二人が川に立ち続け、その楽しさを発信していくこと自体が、この文化を未来へとつなぐ、小さくも確かな一歩になっているのだと感じた。
■プロフィール|橋爪 悠也 / ハシヅメユウヤ
1983年岡山県に生まれ、現在は東京を拠点に活動。
2016年から自主企画による展覧会を通して作品を発表。
2022年には東京のスパイラルガーデン、2023年には韓国ソウルにて大規模な個展を開催。
出身地である岡山では、展覧会を定期的に開催し、地域への継続的な貢献を目指している。
■プロフィール|相馬 逸人 / Hayato Soma 株式会社SODO 代表
アパレル企画会社「株式会社SODO」を運営。
ファッション・アパレル領域を中心に、商品企画、デザインディレクション、ブランド開発、コラボレーション企画などを手掛ける。
ブランドや企業が持つ背景・強みを整理し、マーケットや時代性に合わせて商品へ落とし込む企画を得意とする。
ファッションブランドからセレクトショップ、量販・ライフスタイル領域まで、幅広い企業の商品開発・ブランドディレクションに携わっている。
【スタッフクレジット】
Photo : ren fujishige
Text : takanori ito
Produce :gaku yanase
Storyとは「ライフタイムスポーツを楽しむ人たちの物語」
私には私の、あなたにはあなたの。スポーツの楽しみ方は人それぞれ。
⾃然の中で⾝体を動かすライフタイムスポーツを楽しみながら、人生を彩り豊かに過ごしている方は活力があり、魅力にあふれています。
その方たちは決してプロばかりではありません。
このコンテンツ「Story」では様々な楽しみ方で、自然とスポーツとともに日々を過ごしている人たちを取材し、ライフタイムスポーツの魅力とは何かをコンテンツを通して皆さんと一緒に感じていきたいと思っています。









