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子どもを飽きさせないオンライン自然観察のスゴ技

2022.12.01

東京都西東京市にある多摩六都科学館は、世界最大級のドームで美しい星空を見ることができると評判の場所だ。1億4000万個もの恒星を投影できるプラネタリウムをはじめ5つの展示室があり、観察や実験、工作が楽しめる体験型ミュージアムとなっている。この多摩六都科学館では、2015年からグローブライドと共催で「釣りから学ぶ自然観察」を行なっている。コロナ禍でも休止することなく、7年間定期開催し続ける自然観察。多摩六都科学館の北村沙知子さんと筋野美穂さんに、進化する「体験型釣りイベント」の工夫について聞いた。

「88種類ある星座のうち、今夜の星空、テーマごとの星空を録音ではなく、解説者の生解説で楽しめるのがウリです。同じ季節の星空の説明でも、内容や語り口、音楽などにも解説スタッフそれぞれの色が出て、何度来ても新たな発見があるんですよ」(多摩六都科学館・北村沙知子さん)。

お決まりの展示を見学するといった定型におさまらない、楽しみながら学べる科学館が多摩六都科学館の目指すところ。たとえば館内でも人気の「ムーンウォーカー」は、軽い力でジャンプできる展示物で地球の6分の1と言われる月の重力を擬似体験できる。こういった展示物と同様に、グローブライドと共催で行なっている「釣りから学ぶ自然観察」も楽しみながら学ぶことに重点をおいている。

釣りの興奮を参加される方々に体験させ「楽しみながら学ぶ」がテーマとなっている。たとえば魚を釣るためのエサやルアー(疑似餌)など仕掛けは、魚の生態によってさまざまな組み合わせがある。鮎を釣るためのアユ型ルアーを使うのは、縄張り意識が強い鮎の習性を利用して「アユ型ルアーに対して縄張りに侵入する鮎に体当たりする習性を活かして釣る」といったように、釣りをすることは魚の生態をいろいろと知ることにつながる。また、小平市、東村山市、清瀬市、東久留米市、西東京市といった周辺住民であっても、身近に流れる川がどこから流れ出しどこへ流れていくのか知らない人は多い。柳瀬川での実際の釣りを通じて、「柳瀬川が隅田川の上流域である」ことを知り、自然だけでなく街の歴史、川の防災などの役目などについて学ぶ。
「柳瀬川の上流では鮎が釣れる」、「中流のヌマチチブ、下流の海の近くではボラやフッコ(スズキの幼魚)が釣れる」といった魚類分布や釣れたときの興奮なども共有していくことが、この自然観察会の特徴だ。

飽きさせないオンライン自然観察をコロナ禍にあっても開催し続けている。バーチャル(リモート参加)となった今も、「ただ視聴し受け身」とならないよう、いろいろな工夫が取り入れられている。子どもたちを飽きさせないオンライン自然観察会のカギを握るのは、釣り研究家として子どもたちの質問に答えるダイワのスタッフと、司会進行役の北村さん、カメラやリモート(zoom)といったオンラインツールを操る多摩六都科学館の筋野美穂さんのオペレーションだ。

秋に実施した自然観察のテーマは、「魚の体色から変わる季節を知る」。実際、東京都と埼玉県の県境を流れる柳瀬川で釣りをするスタッフ。このスタッフが釣った魚を画面に映し出し、司会進行役の北村さんが「何という名前の魚だと思う?」「どのような種類に分類されるのかな?」とオンラインでの参加者に問いかけていく。参加者である子どもやその家族は、画面上で魚を観察し、手元にある図鑑やGoogleレンズを使って質問の答えを導き出し、チャットや音声で回答していく。柳瀬川にいる現場スタッフの実際に釣った魚の映像に加え、事前に準備した水中の映像、参考となる関連動画や静止画などを説明に合わせて次々とスイッチングし、参加者の声を拾い上げるのは講師のいる現場に繋ぐのが筋野さんだ。

魚を釣っている映像をただ流しても子どもたちは疑似体験なので飽きてしまう。そこで、現場の模様に合わせたクイズを設けたり、子どもたちがただ視聴するだけでなくアクションを起こしたりして参加し、最終的に「季節によって体色やヒレの色が変わる川に棲む魚の生態」がわかるような構成にした。

「スタッフの解説を途切れさせることなく、子どもたちと柳瀬川にいるスタッフとのスムーズに対話できるよう、チャット機能と音声を駆使しました。子どもたちがより観察会に参加している気持ちになるように、クイズの解答をマルとバツで画面上に出してもらいマルの人のほうが多いね・・・などと語りかけたり、楽しさや驚きを参加者全員で共有してもらえるような場作りを心がけました」(筋野さん)

この自然観察会の講師の一人として、グローブライドの主力事業「フィッシングのダイワ」を定年退職したOBが務めている。釣りを生涯の趣味とし、そのキャリア60年超という大の釣り好き。川も海も、タナゴからマグロまでどのような釣りもこなす。大学時代は水産関係の学部で魚類を学んだということもあり、どういった仕掛けがいいかなど釣りの知識だけでなく、魚の生態についても詳しい。こういった釣りに関する知識や釣具はダイワが提供、参加者の募集や自然観察全体の構成や運営などプラットフォームは多摩六都科学館が担う形でタッグを組み、7年間開催してきた。

「ある程度シナリオはあるのですが、自然が相手。釣果は事前にわかるものではありません。何が釣れたかで進行を変えるのですが、子どもたちからの質問の量が驚くほど多いんです。30分以上も質問が止まらないなんてこともあります。一尾釣れるとその魚について、いつ獲れる魚なのか、食べられるのか、体長どのくらいか、雄と雌どちらのほうが大きいのか……これらの質問に即座に答えられる釣り好きには脱帽です」(北村さん)

一方でダイワ(グローブライド)側は、「しっかりした運営基盤がある多摩六都科学館と組むことで、釣り好きだけではない方々との接点ができる。参加者を飽きさせない工夫も、さまざまな企画展やイベントを開催している多摩六都科学館ならでは」と、タッグを組むことによる相乗効果に大きなメリットを感じている。

釣りから学ぶ自然観察会では、釣りや魚についてだけでなく、アウトドアスポーツを楽しむ前提となる海や川での事故を防ぐ方法や諸注意もしっかり伝える。オンライン開催だとしても、「ライフジャケットを必ず着用」「注意書きがある場所はとくに気をつける」など、知っておくべき情報を伝えておくことも、この自然観察の大事な役目だ。

「今後は、参加していない人々にも見ていただける映像コンテンツとして配信することも検討しています。また、オンラインで視聴しながらオフラインでもできるようなワークシートや工作などを開発し、オンラインイベントだけどリアルで手を動かし記憶に残る何か、を提供できたらいいなと考えています」(筋野さん)

回を重ねるごとに、進化する「釣りから学ぶ自然観察」。この先もダイワと多摩六都科学館との共同でどのような相乗効果が生まれるか楽しみだ。

取材/記事 中原美絵子

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